みすず書房

ブルジョワ

歴史と文学のあいだ

THE BOURGEOIS

判型 四六判
頁数 304頁
定価 5,280円 (本体:4,800円)
ISBN 978-4-622-08723-6
Cコード C0098
発行日 2018年9月18日
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ブルジョワ

「世界文学」の旗手として、またデジタル・ヒューマニティーズの創案者として名を馳せた著者が、〈歴史〉に挑戦する。選んだ主題は、「ブルジョワ」。かつてはマルクス主義批評だけでなく広く社会分析において不可欠であった、この死滅していた概念を、著者は見事に甦らせる。
ロビンソン・クルーソーの孤島での労働、フェルメール絵画の時空間、ゲーテにおける複式簿記、オースティンの自由間接話法、ヴィクトリア時代の形容詞の用法、ドストエフスキー『罪と罰』における金銭——イギリス、フランス、ドイツから、スペイン、シチリア、ポーランド、ロシアまで、18世紀と19世紀の多種多様な小説、詩、絵画から引き出した主題を、モレッティは、大胆に、かつ精密に分析する。また、アウエルバッハ、ウェーバー、ルカーチなどの文学批評や社会思想のテクストも縦横無尽に引用する。そしてその華麗な博覧強記のページを横切るブルジョワという亡霊は、色彩ゆたかな生気を放つようになる。しかし、その行方は?
誰もが知っている文学作品を素材として、独自の歴史記述を編み出す著者は、人文学の危機の時代にあって、新たな人文学のかたちを提示する。「文学批評の偶像破壊者」(ジョン・サザーランド)と称されたモレッティが、社会科学の方法論との融合を目指して打ち立てた、新時代の文学研究と歴史研究の理想型。

目次

序章 いくつもの捉え方、いくつもの矛盾
一 「私はブルジョワ階級の一員である」
二 不調和
三 ブルジョワジー、中流階級
四 歴史と文学のあいだ
五 抽象的な英雄
六 散文とキイワード──予備的考察
七 「ブルジョワは消え去る……」

第1章 働く主人
一 冒険、起業、「フォルトゥーナ」
二 「これがぼくが怠けなかったことの証拠になる」
三 キイワード I──「役に立つ」
四 キイワード II──「効率」
五 キイワード III──「快適」
六 散文 I──「持続のリズム」
七 散文 II──「精神の生産性を発見した……」

第2章 真剣な世紀
一 キイワード IV──「真剣」
二 埋め草
三 合理化
四 散文 III──現実原則
五 記述、保守主義、「レアルポリティーク」
六 散文 IV──「主観の中への客観の転位」

第3章 霧
一 裸で、恥ずかしげもなく、露骨に
二 「ヴェールに隠されて」
三 「出来合い」としてのゴシック
四 ジェントルマン
五 キイワード V──「影響」
六 散文 V──ヴィクトリア時代的形容詞
七 キイワード VI──「真面目」
八 「知を愛さないものなどいない」
九 散文 VI──「霧」

第4章 「各国での変形」──半周縁における変容
一 バルザック、マシャード、金銭
二 キイワード VII──「ローバ」
三 旧体制の持続 I──『人形』
四 旧体制の持続 II──『トルケマダ』
五 「算術からいっても明瞭じゃないか!」

第5章 イプセンと資本主義の精神
一 灰色の領域
二 「指示と指示が折り合わない」
三 ブルジョワの散文、資本主義の詩

原註
訳者あとがき
図版クレジット
文献一覧
索引