みすず書房

少年犯罪は増加も凶悪化も低年齢化もしておらず、減少しているのに、社会の不安感を背景に厳罰化が進んでいる。「少年法」改正がくり返され、いまや少年司法が福祉国家から刑罰国家への転換を牽引している。
非行少年を社会から排除するのでなく包摂するなかで、「人間の尊厳」の回復に努めるにはどうしたらよいか。少年たちをとり巻く状況を分析し、当事者と専門家と市民を三本柱にして、福祉・教育・医療・司法が人権を軸に連携する支援体制の構築を考える。
犯罪はもっぱら個人的、あるいは心理的な特殊な事象であるとされ、自己責任による安心・安全の確保が標榜されている。だが、非行にまつわる少年の困難や生きづらさが解決されることで再犯が防止され、社会の安全が保持されると考え、個別支援を充実させる道はないのか。更生は社会とのつながりの回復でもある。
「法に触れた少年」が映し出すのは、普通の子どもたちとその日常が崩壊し始めている姿である。セカンドチャンスのある社会。「悪い子」も弱い子もすべての子どもの人権を大事にする社会は、すべての人に優しい社会であろう。そのための法的根拠を刑法学から位置づけていく。

目次

はじめに
少年保護事件処理の概念図

第一部 改ざんされる少年非行・少年犯罪
第1章 福祉国家から刑罰国家へ
1 日本の福祉政策と生存権
2 権利と権利運動の否定
3 日本版刑罰国家の設計図
4 司法福祉論の登場──社会防衛に向かう少年司法

第2章 少年非行から少年犯罪へ
1 少年法による特別な取扱い
2 減少する少年犯罪
3 非行対策と処罰
4 再犯防止
5 少年による殺人事件と裁判員裁判──敵・味方刑法の論理

第3章 非行少年のプロフィール
1 重大少年事件の実証的研究
2 闇に置かれた成育歴
3 死刑判決

第4章 少年事件のメディア報道
1 犯罪報道の犯罪
2 少年事件報道の動向
3 実名・顔写真報道への批判
4 刑事政策に与えた影響

第二部 改悪される少年法制
第5章 子どもの権利と少年法制
1 「小さな大人」
2 児童福祉法と少年法
3 指導・監督の対象から「権利の主体」へ
4 国連で危惧される日本の「子ども事情」

第6章 少年法の一部改正
1 日本版少年司法
2 少年法の度重なる改正
3 改正のポイント
4 不安因子家庭

第7章 変質を迫られる担い手たち
1 家庭裁判所調査官と保護観察官
2 付添人
3 官製の民間ボランティア
4 「触法少年」から撤退する児童相談所

第8章 求められる自力更生
1 自助・共助・公助
2 社会復帰支援対策の推進
3 犯罪者・非行少年のための福祉政策
4 NPOの支援事業
5 社会復帰のためのハンドブック

第三部 子どもの未来は人類の未来
第9章 社会モデルによる少年の社会復帰支援
1 医学モデルから社会モデルへの転換
2 九州での取り組みから
3 医療的治療の必要な子どもたち

第10章 真の修復的司法
1 犯罪被害者等の保護・支援
2 修復的司法の提唱
3 死刑について

第11章 当事者が世界を変える
1 自傷と他傷
2 対話の回復
3 更生を支援する元非行少年たち

終章 なぜ人間の尊厳を法で規制するのか
1 弱い人間も、悪い人間も
2 人権教育
3 法に触れた少年の学びの場

おわりに