みすず書房

農家が消える

自然資源経済論からの提言

判型 四六判
頁数 320頁
定価 3,850円 (本体:3,500円)
ISBN 978-4-622-08737-3
Cコード C1033
発行日 2018年10月16日
備考 現在品切
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農家が消える

人びとの生存を支え、国土を保全してきたなりわい=農業の危機が止まらない。1960年と2015年を比較すると、総農家戸数は606万戸から216万戸に、農業就業者数は1196万人から201万人に、農作物作付延べ面積はほぼ半減した。
アメリカのTPP離脱後も、日本政府はNAFTA-TPP型経済連携をめざして大規模農業化を推進するが、農山村では里山の荒廃と集落の衰退がつづく。防衛関係費予算は5兆1200億円余、じつに農林水産関係費の2.2倍強。食料自給率は先進諸国のなかで群を抜いて低い。
本書は、持続可能な農業と農山村のあり方について、一橋大学大学院経済学研究科を拠点にした「自然資源経済論」グループの10年間の成果にもとづく提言である。
グローバリズムと成長産業化一辺倒の農業政策を見直す。農業の担い手不足を乗り越える構想と政策。自治力を高め、地域の価値と「かけがえのないもの」を守る制度づくり。農山村地域からのエネルギー転換。公正で「全体最適」な貿易原則。
明治以後の近代化・都市化の限界が明らかになった現在、社会のあり方を根底から見直す時である。
自然共生型農業の実現のさきに、アジアと連携し、ともに発展する環境共同体を構想する。

目次

まえがき
序章 いま、なぜ自然資源経済論か
1 自然生態系を基盤とした人間社会本来の経済的営み
2 日本の農業・農山村をめぐる《重層的な難局》
3 持続可能な農業・農山村をどう維持・保全していくか

I 歴史的な岐路に立つ農業・農山村
第1章 農業・農山村危機の実像とその背景
1 危機に瀕する農業と農山村社会
2 「農業・農協改革」で噴出する議論と対立
3 何が本当の問題なのか

第二章 これからの農業・農山村政策
1 自然資源経済論と農林水産業
2 戦後日本農政の概観と今後の課題
3 対外経済政策と農政
4 自然共生型農業の実現に向けた政策提言

第三章 人間と自然資源のかかわりを再構築するために
1 森林利用の歴史
2 自然資源をめぐる社会関係
3 農業・農山村の役割と機能の低下
4 再構築に向けた連携と社会再編

II 世界のなかの自然資源経済
第四章 条件不利な農業・農山村を支える仕組み──EUとオーストリア
1 なぜオーストリアなのか──農地の64パーセントが条件不利地域
2 EUとオーストリアの農業・農山村政策
3 魅力的な地域づくりの事例

第五章 景観・文化の保全──かけがえのない価値を守る仕組み
1 いま、何が消えようとしているのか
2 「農村らしさ」に迫る危機
3 かけがえのない価値を守るのは誰か──イギリスの経験
4 日本の棚田景観を守り続けるために──白米千枚田の事例
5 危機からの脱却──担い手と費用負担

第六章 農山村地域からのエネルギー転換
1 自然資源経済とエネルギー
2 先駆的な地域再エネ事業——ドイツ・アグロクラフト社の取組み
3 日本におけるエネルギー転換の進捗状況
4 地域再エネ事業に対する支援政策
5 価値の制度化

第七章 貿易と経済連携への新視角——東アジア地域との共生へ
1 グローバルな自然資源経済をとらえる
2 有限な自然環境を前提にした貿易とは
3 日本の経済連携の進路を考える

終章 自然資源経済の担い手をどう支えていくか
1 農業・農山村の担い手を広げる
2 担い手を支える制度──国民的な理解と合意の重要性
3 地域の《顔FACE》と《自治力》を高めていく時代へ

あとがき

自然資源経済論特別講義 開講プログラム I・II・III