みすず書房

存在から発展へ【新装版】

物理科学における時間と多様性

FROM BEING TO BECOMING

判型 A5判
頁数 328頁
定価 7,260円 (本体:6,600円)
ISBN 978-4-622-08803-5
Cコード C3042
発行日 2019年4月10日
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存在から発展へ【新装版】

古代ギリシャの哲学者へラクレイトスは、「なべての物は流れ、すべて〈ある〉はなく〈なる〉のみ」という有名な言葉を残した。本書の表題は、存在(ある)から発展(なる)への、つまりは可逆的な力学的世界観から不可逆的な熱学的世界観への転換を意味している。
古典物理学の三大支柱のうち、力学と電磁気学は、ある時刻における条件が与えられればその後の変化が確定的に決まるという意味で〈決定論的〉であり、また時間の向きを逆転してもそのまま成立するという意味で〈可逆的〉である。これに対し、熱力学は古典物理学においてきわめて異質的な存在で、その著しい特徴は不可逆性にある。熱現象に特有のこの不可逆性は可逆的な力学理論からどのようにして導出できるのであろうか。
本書は、非平衡熱力学の開拓者である著者が〈発展の物理学〉における自らの独創的業績の基礎を体系づけ、その哲学的意義を明示したものである。構想力に富む本書は、不可逆性への新しい視点を提供するとともに、物理学的世界観の変革への契機をはらむものとして注目を集めてきた。その後『混沌から秩序へ』を経て、〈複雑性〉の考え方につながる端緒となった著作である。

[初版1984年12月5日発行]

目次

日本語版への序文
まえがき

第1章 序:物理学における時間
動力学的記述とその限界
熱力学の第2法則
不可逆過程の分子的記述
時間と動力学

第 I 部 存在の物理学
第2章 古典動力学
はじめに
ハミルトンの運動方程式と統計集団理論
演算子
熱平衡の統計集団
積分可能な系
エルゴード系
積分可能でもエルゴード的でもない力学系
弱い安定性

第3章 量子力学
はじめに
演算子と相補性
量子化の規則
量子力学における時間変化
量子力学における統計集団の理論
シュレーディンガー表示とハイゼンベルク表示
熱平衡統計集団
観測の問題
不安定粒子の崩壊
量子力学は完成されているか?

第 II 部 発展の物理学
第4章 熱力学
エントロピーとボルツマンの秩序原理
線形非平衡熱力学
熱力学的安定性の理論
化学反応への応用

第5章 自己秩序形成
安定性、分岐およびカタストロフィ
分岐:ブリュッセレーター
解くことのできる分岐のモデル
化学と生物学におけるコヒーレントな構造
生態系
まとめ

第6章 非平衡のゆらぎ
大数の法則の破綻
化学ゲーム
非平衡相転移
非平衡における臨界のゆらぎ
振動と時間的な対称性の破れ
複雑さの限界
周囲の雑音の効果
まとめ

第 III 部 存在から発展への橋渡し
第7章 運動学的理論
はじめに
ボルツマンの運動論
相関および若返りのエントロピー
ギブズのエントロピー
ポアンカレ‐ミスラの定理
新しい相補性

第8章 不可逆過程の微視的理論
不可逆性と古典および量子力学の定式化の拡張
新しい変換理論
エントロピー演算子の構成と変換理論:パイこね変換
エントロピー演算子とポアンカレのカタストロフィ
熱力学第2法則の微視的解釈:集団モード
粒子と散逸:脱ハミルトニアンの微視的世界

第9章 変化の法則
アインシュタインのディレンマ
時間と変化
演算子としての時間とエントロピー
記述の階層
過去と未来
開かれた世界

第10章 不可逆性と時空構造
1. 動力学的原理としての第2法則
2. 動力学と熱力学の橋渡し
3. 内部時間
4. 過去から未来へ
5. エントロピーによる制限
6. 不可逆性と非局所性
7. ボルツマン‐グラッドの極限
8. 巨視的定式化への移行
9. 時空の新しい構造
10. 状態と法則——存在と発展の交互作用
11. 結語

付録
付録A パイこね変換に対する時間演算子とエントロピー演算子

付録B 不可逆性と運動論的方法
1. 相関の動力学
2. 超空間における量子力学的散乱理論

付録C エントロピー、測定および量子力学における重ね合わせの原理
純粋状態と混合状態
エントロピー演算子と運動の生成要素
エントロピー超演算子

付録D 量子力学におけるコヒーレンスと不規則性
演算子と超演算子
古典的な変換関係
量子論的な変換関係
結語

参考文献
訳者あとがき
人名索引
事項索引