みすず書房

万物創生をはじめよう 電子書籍あり

私的VR事始

DAWN OF THE NEW EVERYTHING

判型 四六判
頁数 496頁
定価 3,960円 (本体:3,600円)
ISBN 978-4-622-08907-0
Cコード C1040
発行日 2020年6月16日
電子書籍配信開始日 2020年8月5日
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万物創生をはじめよう

平凡な会社員の生活がバーチャルリアリティ(VR)空間と現実世界にまたがる──こんな時代の到来を、40年前に誰が確信していただろう……この人以外に。 
第一次VRブームの立役者であるラニアーが、VRの来歴と次世代への展望を(意外にも初めて)書き尽くした真骨頂の一冊。人間とVRの関係の本質について、先駆者ならではの思索を綴る。異能の者たち(男性ばかりではない)がひしめく80年代〜90年代初頭のシリコンバレーの情景も、アップルやマイクロソフトのようなIT覇者とは異なる視点からいきいきと振り返る。
VRは人間の“主観”に軸足を置くテクノロジーだ。個人が主観的に経験している世界全体(いわば環世界)を拡張し、他人のそれと融け合わせることさえ可能にする。本書が語るその体験はまるで楽器の演奏のように身体的で、人間とは何かを再確認させ、考えさせる。
ラニアーはVR史の最初期からそこに未来を見ていた稀代のプロモーターだった。この型破りな本の中には、どんな読者にとっても、VRだけでなくテクノロジー全般への認識を塗り変えられるような発見があるだろう。
ニューメキシコの砂漠の隅っこにドームの自宅を建てた少年としてはじまる著者のキャリアは、文句なしに非凡でおもしろい。徒手空拳のエンジニアたちがガレージでイノベーションを生み出していた、かつてのアメリカの底力を体現している。

目次

前書き——バーチャルリアリティの新時代がはじまる

はじめに
VRとは何か?/少なくとも今のところはVRにできないことで、本にできることは何か?/この本の読みかた/若き日の自分に会う

第一章 1960年代——エデンで起こった恐ろしい出来事
境界/窓/3点セット/気分/回転/記憶の壁/音/執拗ないじめ/初めての実験/焼失

第二章 救難宇宙船
新しい土地/宇宙のどこに?/エラリーの来歴/許可が下りる/建てる/生息環境

第三章 バッチ処理
原子から宇宙まで/アクセス可能/風に舞うパンチカード/ヤギ/ピクセルとのかかわり/書架/宝物が見つかった!/アイヴァンのことで、見知らぬ人々を困らせる

第四章 私がVRを大好きなわけ(基本的な事柄について)
鏡が明らかにする/名詞ではなく動詞/VRのリアルさとは/自分自身への気づきをもたらすテクノロジー

第五章 システムの中のバグ(VRの暗黒面について)
パラノイド・アンドロイド/恐怖の方程式/バイポーラ・ビット

第六章 旅路
ドーム完成/映画談義/初めてのNYC/螺旋を下る/ふたたび炎の中へ/アステカの前哨地、そして車/追及/コンセンサスと良識

第七章 西海岸
モグリの学生/その街はしらふではない/虹の重力/グーグルの原型/オーディエンス/講演の記録

第八章 粋狂の谷
サイバーな業界への第一歩/最適な私たち、最適な彼ら/有限ゲームと無限ゲーム/ループ・スカイウォーカー/行動主義者になることを避けるためには、とんでもなく変てこな人にならねばならない/着地/私をメンバーにしてくれるクラブ/コード・カルチャー

第九章 エイリアンとの遭遇
どうしようもないバグ/母ちゃん貸出サービス/寂しさ教の若き導師/気づき/抗いがたい衝動/寂しさと戦う数学?

第十章 没入感
社会的幹細胞だった女性たち/VRと子どもたち/三連祭壇画/リアリティ・エンジンのエンジン/タッチの重要性/ハプティクス狂騒曲

第十一章 新しい万物を身にまとい(ハプティクスについて、そしてアバターについても少々)
視覚偏重/手袋だけに手品のようなデモ——デジタルインターフェース/受動的ハプティクス/グローブは腕にこたえる/VRの中での学習/最初の消費者向け製品/胃の中のハプティクス/タコ執事ロボット/デバイスとしての舌/はるか遠くに旅するタイムマシン/ハプティックな知性/ひとつのものに取り憑かれるのでは不十分であるかのように/害と癒し

第十二章 日の出前
そのほかのため息/そのほかの「万物に抱く夢」/先行の「万物」/見本市へ/正統性、髪、巨人の肩/南部のフューチャリズム/蟻たちのミッション/軌道に乗せる

第十三章 六つの自由度(センサとVRデータについて少々)
目はさまよわなくてはならない/脳は統合する/感動的な体験/VR酔い/バーチャル・リアリズム対バーチャル・アイデアリズム

第十四章 見いだされる
釣り糸を投げる前に手応えが/小湖南の助言者たち/会社設立/資金調達/スーツ組の助っ人/製造設備/出荷した!

第十五章 あなたのピラミッドのてっぺんにあるもの(VR用ビジュアルディスプレイについて)
アイフォン(EyePhone)回想/あんたの頭のあれ/今は選べない道/私たちの周りの空中に浮かぶばかばかしい間違い/ガジェットのスペクトル/スペクトル上の内側の極/外側の極/ヘッドセットは捕えがたい/エタンデュのように考える/双方向性が絡む難題

第十六章 VPL体験
渦巻き/ヴィープル/VRを役立てる:手術訓練;貿易風;国内プロジェクトのいくつか;兵士とおばけ;キャラクター;スピンオフ

第十七章 内側から見たり聞いたりするためのさまざまな球(「映像」と音響について少々)
映像球/オーディオスフィア

第十八章 シーン
沸騰するデモ/デモの技術/世界をつくる技術/VRデザイナー、アーティストへのアドバイス/たくさんの旗が立っている/言葉のひとり歩き/パーティーシーン/流れ弾が当たって貫通/暗い系譜/鏡よ、鏡

第十九章 私たちはいかにして未来に希望を託すに至ったか
バーチャルな権利は、バーチャルな経済的権利とは違う/世界制覇への安直な道/微重力状態/アバターの手として可視化されるとき、見えざる手は進歩する/宗教の誕生/神話ではなく、研究を愛そう/エイリアン・バーチャルリアリティ

第二十章 1992年、外へ
マイクロコズム/映画がとらえたVR/膨大な可能性が失われた/巧妙に、密やかに/片手の音楽/有限ゲームの終わり

第二十一章 コーダ——リアリティの挫折

結び
謝辞

補遺 相争う半神たち
付録1 ポストシンボリック・コミュニケーション(私の古典的VR講演のひとつで描かれたさまざまな夢想について)
付録2 フェノトロピック熱(VRソフトウェアについて)

注記
索引

書評情報

HONZ(冬木糸一・評)
2020年6月25日
伊藤亜紗
(東京工業大学准教授)
毎日新聞 2020年7月18日
稲見昌彦
(東京大学教授)
「メタバースが開く未来」
日本経済新聞 2022年4月9日