みすず書房

1937年9月-1939年7月、小津は一下士官として従軍、中国大陸5000キロを踏破する。その間に認められた日記が生涯の日記になかでもっとも緻密で濃密な記述に満ちていることは、ご存じの方も多いだろう。「しかし、彼はじつは日記のほかにもう1冊のノートを残していた」。本書第II部で全文公開の「陣中日誌」である。
山中貞雄の遺文に触発されて書き綴られた戦場スナップ「撮影に就ての《ノオト》」、火野葦平『土と兵隊』を批判した読書ノート、対日本兵工作員用のパンフレットをまるごと筆写した「対敵士兵宣伝標語集」ほか、「戦争という人間の頽廃の危機」のただなかで、非人称のカメラさながらすべてを記録にとどめようとする強靭な意志に貫かれている。しかも日記とは「重ならない内容のほうが多い。日記と相補う形で、戦場の小津安二郎軍曹の見聞と思考を記録し、体験を伝える貴重な資料」なのである。
戦場とは何か。軍隊とは何か。小津安二郎の「戦争体験」とは何だったのか。新資料を発掘・提示しながら解き明かされる人間ドキュメント。

[初版2005年7月22日発行]

目次

I
大正映画少年
べス単とマンドリン/稚児事件のころ/セヴンティーンの鑑賞記録
戦争と人間
三十三歳の出征/慰安所心得左の如し/チョコレートと兵隊
新嘉坡好日
一九四五年八月十五日/連句とモンタージュ

II
小津安二郎陣中日誌
読書ノート/対敵士兵宣伝標語集/撮影に就ての《ノオト》/MEMO/住所録

解説

あとがき