みすず書房

〈国体のもとに帝国憲法は存在し、安保のもとに日本国憲法は存在することになった。しかも、国体の中核である天皇も、安保を動かす米国政府も、どちらも、たとえば「勅語」であれ、「ガイドライン」であれ、どれをとってみても国民は言うまでもなく国民代表(国会議員)も手を出せない「絶対的な最高の存在」である。あるいはまた、日本の指揮権は米国にあると考えられるが、帝国憲法下でも「統帥権」は天皇の専権であり、「統帥権の干犯」は許されなかった。つまり、国民から見れば明治期以来、天皇制も日米安保も、手の届かない遠い存在という意味では、近代150年を一貫していることになる〉

第九条を中心とする日本国憲法と日米安全保障条約。明らかに背反するこの二つの骨格を、背反しないかのようにして、占領期以後の日本は歩んできた。しかし子細にみると、「憲法も、安保も」ではなく、米国の要請に応えるかたちで「安保が第一、憲法は第二」となってきたことがわかる。
指揮権密約から安保条約および付属する日米行政協定、安保改正・沖縄返還交渉での核密約、日米同盟と有事法制、自民党の憲法改正案、安保を支える国体思想まで、「対米従属」という観点から、第一人者が戦後の日米関係を再検討する。

 

目次

はじめに

第一章 指揮権密約
第一節 二度にわたる指揮権密約
朝鮮戦争から再軍備へ  クラーク米極東軍司令官から吉田首相へ  アリソン米駐日大使から吉田首相へ
第二節 占領政策の転換――限定的再軍備
米国の「国家安全保障法」  対日「限定的再軍備計画」
第三節 米国にとっての日本再軍備
安保条約草案における指揮権  リッジウェイの日本再軍備観
第四節 米国の太平洋協定(Pacific Pact)案
米国にとっての日本軍  太平洋諸国にとっての日本再軍備
第五節 帝国軍の崩壊から再興へ
昭和天皇にとっての帝国軍  昭和天皇の再軍備観
第六節 日本政府にとっての再軍備
下村定の「新自衛軍構想」  自由党の「日本国憲法改正案要綱」
第七節 国家主権と指揮権に関する日米交渉
講和条約における本土と沖縄の「主権」  米国の安保条約案における指揮権
第八節 安保条約に付属する日米行政協定
行政協定に現れた指揮権  日本軍の指揮官はアメリカ人
第九節 日米合同委員会の誕生
合同委員会の設置  合同委員会の構成  主権なき安保特別法  日米異なる戦後認識からの出発

第二章 朝鮮半島の有事密約
第一節 「米日韓」一体化
吉田・アチソン交換公文  多国籍軍としての朝鮮国連軍  国連軍地位協定  韓国軍の指揮権  国連軍司令部と日米指揮権密約
第二節 「直ちに」朝鮮半島へ出撃
米国側にとっての安保改正  マッカーサー米駐日大使による藤山外相との密約  岸首相による朝鮮有事密約
第三節 自衛隊による「三矢研究」
三矢研究の概要  実施目的  朝鮮有事と自衛隊の指揮  佐藤首相、「政府も知らない事態」  有事立法の橋頭堡
第四節 密約政治がもたらす従属性
「従う」側と「従わせる」側  日本関連公文書、13.5%非公開

第三章 安保改正での核密約
第一節 岸信介の安保改正
核兵器という猛獣  岸の安保条約改正目的
第二節 砂川事件と最高裁判決
基地闘争と砂川事件  田中最高裁長官、マッカーサー大使と非公式会談
第三節 事前協議に伴う「密約」
岸・ハーター交換公文  事前協議形骸化の「密約」
第四節 大平・ライシャワー会談
核密約の再確認  絵に描かれた「対米従属」  従属的ナショナリズム体制の発足

第四章 沖縄返還と核密約
第一節 非核三原則
誕生の背景  佐藤栄作の「核四原則」  沖縄の核、1300発
第二節 沖縄返還交渉
沖縄返還  奄美・小笠原返還の核密約  密使外交の登場
第三節 佐藤・ニクソン日米首脳会談
日米共同声明  共同声明に伴う密約  密約文書は佐藤の自宅に  政府見解の焼き直しの「国会決議」  横須賀の空母化と密約
第四節 返還、その後
その後の世論  分裂する日米の「絆」  沖縄・安保そして万博
第五節 ライシャワー発言とその結末
熟慮の末?  日本国民は知っていた  外務省『報告書』の反響  FOIAの時代

第五章 消えた自主防衛
第一節 転換期の安全保障
ニクソン・ドクトリン  七〇年安保  事前協議
第二節 自主外交の模索と挫折
防衛を考える会  マニラでの福田ドクトリン  大平首相の総合安全保障  総合安全保障関係閣僚会議とその後  高坂らの大平・鈴木首相批判  久保卓也――自主防衛の模索  基盤的防衛力構想  「自主」から「従属」へ――中曽根康弘
第三節 環太平洋合同演習
安保の太平洋化  太平洋協定案の再来
第四節 日米防衛協力の指針(ガイドライン)
ガイドラインの誕生  旧ガイドラインの概要
第五節 試されたPKO
平和維持「活動」の時代へ  国連平和協力法案  岐路に立ったPKO  国連PKO  協力法と指揮権  PKOと国際人道法

第六章 有事法制下での対米従属
第一節 日米安保の再定義
日米安保共同宣言  周辺事態法
第二節 首相の諮問機関が見た「日米同盟」観
樋口レポート――多角的安全保障協力  荒木レポート――統合的安全保障戦略
第三節 躊躇なき対米従属へ
ガイドライン再改正の背景  再改正ガイドライン  常時有事体制  イラク戦争の教訓  陸上総隊の設立  日米共同部の設立  思いやり予算
第四節 有事立法と朝鮮国連軍司令部
休戦下の指揮権  韓国の指揮権と東アジア
第五節 問われる権力分立
法制局長官の更迭  司法の従属化  日米安全保障条約課

第七章 自民党の憲法改正案
第一節 米国政府から見た日本国憲法
安保を忘れた九条論  憲法改正は可能か  日本は立憲主義国家か?
第二節 憲法改正の軌跡
改正の意思なし  再軍備へ「二潮流の対抗」  二度の敗北――衆参での選挙と政府調査会
第三節 米国政府にとっての日米安保
日米安保の究極の目的は?  米軍基地の確保  自衛隊の指揮権  核搭載機・艦船の「持ち込み」  アジア太平洋域へのヘゲモニー  日米安保と憲法改正
第四節 自民党の憲法改正案
2005年改正案  2012年改正案  2018年改正案  冷戦後の憲法改正案  憲法も、安保も  書かれざる憲法条文  護衛艦「いずも」の空母化  安保化する憲法改正  「徴兵制」なき徴兵制  憲法改正の後に来るもの

第八章 安保を支える国体思想
第一節 ふたつの法体系
「安保」がなぜ「国体」に関わるのか  「国体思想」とは何か  帝国憲法と教育勅語  日本国憲法と安保法制
第二節 立憲主義の崩壊過程
帝国憲法に対抗する教育勅語  「植民地」問題から「帷幄上奏」へ  「天皇機関説批判」から「国体の本義」へ
第三節 国体思想が残したもの
「国体」と「主権」の間  「天皇は国民と一体」という国柄  祝日法のアンケートにみる民意
第四節 「国体」と「安保」
統帥権と指揮権の間  輔弼責任とコラボレーターの間  「例外的存在」として

第九章 「従属構造」を見据えて
「従属」からの出発  「借り着」の安全保障  密約を生み出す社会  「面目」と「恐れ」、そして自発的従属  従属の帰結  閉ざされた情報公開  従属国家の向こうへ

あとがき

 

書評情報

成田龍一
(歴史学者)
日本経済新聞 2021年2月6日
斎藤貴男
(ジャーナリスト)
東京新聞 2021年2月13日
水島朝穂
(早稲田大学教授)
信濃毎日新聞 2021年2月27日