みすず書房

「わたしが考える建築は、建築の原型へ遡行していくようなある種の〈普遍的な凡庸さ〉を求める傾向があります。かつてはその先にある姿形を〈素形〉と呼んだことがあります。一方で、建築はそこに存在しているだけでいやおうなく何かを表明してしまいます。すなわち〈表現すること〉と無縁ではいられません。ここに表現者として個人の問題が生まれてきます。
つまり〈凡庸さ〉とは匿名性のことで、〈個人〉とは作家性のことです。このせめぎあいに、心ある建築家なら誰でも苦しんできたといってもよいと思います。そしてわたしの場合、より〈凡庸さ〉に近いところに位置するのが問題なのかもしれません。だから〈個人〉の作家性を至上とする建築界とは距離ができてしまうのです。
問いかけられる難問に答えることで本書で挑もうとしているのは、その垣根を乗りこえることです。わたし自身の思考を俎上にあげて再検証し、その作業を通してふたつの異なるOSを橋渡しする新たな回路を模索することです。それは建築に対する世のなかの誤解を解くことにつながるかもしれないし、閉じられた建築の価値に風穴を開けることになるかもしれません」

建築・都市・土木の分野を自在に往還、3・11以後は三陸の各種復興委員会に名をつらねた著者によるラディカルな建築論、渾身の問答集。聞き手・真壁智治。

目次

はじめに

序 建築を和解の場にするということ

第1章    建築という言葉の難問
建築を定義する
存在としての建築、現象としての建築

第2章 建築を支えてきた難問
建築は世界とつながれるのか
建築で人は幸せになれるのか

第3章 建築に備わる難問
空間について
時間について
場所について

第4章 建築内存在としての難問
モダニズムという問題
「中心」と「周縁」
「私」と「公」
「中央」と「地方」
「都市」と「地域」
「継承」と「切断」
作品性あるいは作家性について
建築は芸術か

第5章 建築を生むための難問
架構について
材料・構法・構造
「素形」と「素景」について
プレハブリケーション
土木と建築
アンビルトという方法
建築は批評性をもちうるか
つくり手と使い手

第6章 社会と歩む建築が抱える難問
3・11と建築
建築を伝える
都市をつくる
建築家とは誰なのか
建築を評価する
新しい凡庸さについて
建築への問いかけ

第7章 建築を愛しうるかという難問
建築の外面と内面
建築と社会
建築を語る
建築を愛する


長いあとがき

書評情報

著者インタビュー
中央公論 2021年10月号「著者に聞く」

関連リンク

「長いあとがき」より

(抜粋をお読みになれます)