みすず書房

あなたが消された未来 電子書籍あり

テクノロジーと優生思想の売り込みについて

FABLES AND FUTURES

Biotechnology, Disability, and the Stories We Tell Ourselves

判型 四六判
頁数 344頁
定価 3,960円 (本体:3,600円)
ISBN 978-4-622-09002-1
Cコード C0036
発行日 2021年5月17日
電子書籍配信開始日 2021年5月28日
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あなたが消された未来

一部の先端的なバイオテクノロジーは、人々の優生学的な衝動を利用しながら売り歩かれている。著者はダウン症のある子をもつ作家として、この局面を見つめた。
本書は、バイオ企業の広告や、スティーブン・ピンカーら科学者の発言を吟味し、テクノロジーがもたらす未来のビジョンとともに優生思想がいかに私たちの意識下へ刷り込まれているかを示す。新型出生前診断(NIPT)をはじめとするスクリーニング、ゲノム編集、ミトコンドリア置換、合成細胞、染色体サイレンシング……こうしたバイオテクノロジーのPRの物語のなかで、障害者はすでに消された、実体のない存在であり、またそれゆえに、売り込みに必須の要素として使われている。
売り込みは経済合理主義の社会的圧力をエンジンとして推し進められ、非定型の遺伝的素因をもつ人々は圧倒的少数派へと追いやられつつある。生殖テクノロジーの選択は当事者の「自己決定」の問題だといわれるが、本書が示すような圧倒的な〈説得〉の圧力のもとにある自己決定とは何物だろうか? ジョージ・フロイドとまったく同じ形で命を奪われたダウン症のある青年イーサン・セイラーに、私たちの多くが気づけなかったのはなぜだろう? テクノロジーが優生思想の裏口となっている現状を痛切に描き出す書。

目次

第一章 仮想の子供(バーチャル・チャイルド)
遺伝的に望みどおりの子供──バーチャル・チャイルド──「疾患」の拡張──障害の「関係」モデル──売り込みのナラティブと障害像

第二章 生殖細胞系
ゴールトン優生学の階層制──クリスパー・キャス9のための〈説得〉──精子バンクの新たなワンドロップ・ルール──「エ・プルリブス・ウヌム」の二つのビジョン──遺伝子を編集される人々の声──利用しながら消し去るレトリック

第三章 カウンティフェアで
ベター・ベビー/フィッター・ファミリー・コンテスト──初期優生学のビジョンと国家・地域・家族──脱絶滅テクノロジー──「自然なもの」による〈説得〉──楽観主義の連鎖反応──科学とフィクション──より多くのマンモス/より少ないダウン症

第四章 私たちの画面上で
NIPTの広告──売り込みの儀式──「テレソン」の語り方──因習と〈会話〉──最新の「知恵遅れ」ジョーク──知的障害者からの応答

第五章 但し書き
NIPTのマーケティングとイメージ──「哀れなエドナ」──リスクと理想の対比──意図的な曖昧さ──密かな〈説得〉

第六章 ニューオーリンズ
遺伝カウンセラー──遺伝子の未来のタイムズスクエア──微小欠失、「22q11・2」の売り込み──あらゆるものを検査する未来

第七章 シンシアを読む
「新しい種類の生命」というメタファー──合成細胞「シンシア」の売り込み──哲学的進歩なのか──『アメイジング・スパイダーマン』のカインとアベル

第八章 軽蔑的なナラティブ
〈会話〉を停止させるための〈説得〉──三人の親によるIVF(ミトコンドリア置換療法)──「恐れに満ちた」大衆というキャラクター──合意の不在と市場の圧力──「選択」から「デザイン」「能力強化」へ

第九章 モデル・ワールド
染色体サイレンシング──人間の「コスト」──フェアヴュー・トレーニングセンターによる隔離──シングルストーリーの問題──イーサン・セイラーの死

第一〇章 居場所を見つける
進歩のナラティブの歴史──居場所のあるストーリー──『かくれた天使』の語り──代弁について──『ナイジェル・ハントの世界』

結論 身体と住み処(ホーム)
DNAに記録された連続写真──リニアな進歩と途絶──繰り返される不可視性・衝撃・時間の歪みというモチーフ──身体と住み処の未来

謝辞
訳者あとがき

参考文献
原註
索引

書評情報

村上陽一郎
(東京大学名誉教授・科学史)
毎日新聞 2021年7月10日
千葉紀和
(毎日新聞記者)
毎日新聞京都版 読書之森 2022年2月13日