みすず書房

バルトーク晩年の悲劇【新装版】

THE NAKED FACE OF GENIUS

判型 四六判
頁数 386頁
定価 3,960円 (本体:3,600円)
ISBN 978-4-622-09063-2
Cコード C0073
発行日 2021年11月1日
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バルトーク晩年の悲劇【新装版】

この本の発見は私にとって何という感動的な、心に触れて消え去らない経験であったことか!
――ユーディ・メニューイン

ナチの脅威が迫るなか、1940年10月、作曲家ベラ・バルトークは妻ディッタとともに、祖国ハンガリーを去り、アメリカに亡命する。著者、アガサ・ファセットがブダペストの音楽学院の学生だった頃、ピアノの教授であったバルトークは、学生の間で偶像視されていた。著者は、1920年にアメリカに渡ったが、20年後に、バルトーク夫妻の生活を助けることとなる。本書では、その亡命からバルトークの死にいたる5年間、経済的困窮、病気の中での、作曲・演奏活動、民謡蒐集の研究、日常生活など、天才の素顔が鮮明に描かれる。

 [初版1973年4月25日発行]

目次

I ヴァーモントの私の別荘には、玄関脇の物入れの奥に、大仰に曲ったにぎりつきで節だらけの杖と
II 1940年10月も末の夕べ、ニューヨークのあるアパートのドアの前で
III 馬でもなくインディアンの頭でもない——これと名状しがたい——が、あらゆるものが一体となって
IV 「簡単なつくりの広い場所」を見つけるのがそう簡単なことでないことがわかったのは、私たちが
V その冬も終わる頃、それがバルトーク夫妻の条件を充たすかどうかなどは
VI 難破船の漂流物を漁るように、ディッタと私は競売を待つ不用になった家庭用品の、果てしない
VII バルトーク夫妻が新しいアパートへ移り住んでから数週間は
VIII 夜明けは寒かった。濃い霧雨が灰色の空気の中に降り
IX 数日後、私はバルトークの部屋に近い奥行の深い物入れの奥にルルがいるのを見つけた。
X 青白く憔悴して、バルトークは家の中を徘徊しつづけた。昼食前のこともあり
XI ある日昼食の最中、バルトークに促されて外を見ると、家の上の細い道を下ってくる
XII ある昼下り、バルトークは古風なニッカーポッカーに身をかため
XIII 自家発電機は、バルトークの気分によって、穏やかなときもどうしようもないときも
XIV 客たちが発ってしまっても、バルトークは以前でき上がっていたお定まりの
XV もう一つのバルトークの顔。今、今わたしの心に思い浮かべている顔は
XVI タクシーに荷物を満載してリヴァデイルの家についたときには
XVII 疲弊と苦痛のうちに死に瀕している世界、という重いイメージに捉われ
XVIII その頃、バルトークの加減が悪くなっているという兆しは
XIX この彷徨から数日と経たないある夜
XX 突如として再び冷たく暗い冬になった。
XXI それぞれの暗い影でお互いを深め合う二つの主題のように、バルトークの病気と
XXII あらゆる事態が、いまにも終焉に到って当然のようであった。夫妻の生命のバランスを保つ糸は
XXIII 秋も深まった頃であった。バルトークとディッタは
XXIV バルトークが定期的に陥る沈滞状態から立ち戻ってくるときは
XXV 「無伴奏ヴァイオリンソナタ」の初演が1944年11月末にカーネギーホールで
XXVI 長い冬のあいだ、私はバルトークがくすんだ灰色の中に溶けこんで
XXVII また夏がきた。しかし、広く陽光に満ちたカリフォルニアの

訳者あとがき