みすず書房

ヨーロッパ文学とラテン中世【新装版】

EUROPAISCHE LITERATUR UND LATEINISCHES MITTELALTER

判型 菊判 タテ218mm×ヨコ148mm
頁数 942頁
定価 17,600円 (本体:16,000円)
ISBN 978-4-622-09100-4
Cコード C3098
発行日 2022年4月 8日
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ヨーロッパ文学とラテン中世【新装版】

これは、ヨーロッパ文学について今世紀に書かれたおそらく最も重要な書物であり、今後、ヨーロッパ文学または文化を語るとき、つねに念頭におかるべき書物である。
ヨーロッパとはたんに地理的名称をいうのではなく、固有の伝統を有するひとつの「意味統一体」である。クルツィウスは歴史研究の根底をなすひとつの学問的技術たる文献学を駆使することにより、この事実を見事に証明する。西洋文化のもつ空間的時間的統一性をあらたな方法によって照らし出す試みにおいて、ひとつの立脚点となるのは、ウェルギリウスとダンテのあいだに横たわる十三の世紀の教養語たる「ラテン語の世界」である。もうひとつはギリシア、ローマから十六、七世紀に至るあいだの諸文学、すなわちヨーロッパ文学である。かかる楕円構造よりなる広大な文学空間を、著者は細心に精査しつつ、各テキストのなかに文学的伝統の連続性を探りあてる。
「文学」という言葉の出自、「古典的著作家」の概念の歴史、「マニリスムス」と定義される反古典主義的諸潮流、そして「トポス論」などの諸テーマについて、歴史的な詳述がなされ、読者はおのずとヨーロッパ文学の全体考察へと導かれる。
「文学の現象学」を志向する厳密な方法論にもとづきながら、これはまたその背後に現代西洋文化にたいする危機意識をもった文明批判の書物である。ナチの神話と暴力による「尺度と価値」の崩壊、それにひきつづく不毛な「荒地」としての現代的情況。これに対抗して、本書は遠く中世を根拠地にとりながら、あらたな人文主義の旗のもとに知的迂回戦を展開している。デラシネの時代にあって、文学的伝統の根元を歴史的に証明した本書が、ゲーテ賞を得たことはきわめて当然のことといえよう。

[初版1971年11月30日発行]

目次

指導原理
再版への序
初版への序から

第1章 ヨーロッパ文学

第2章 ラテン中世
1. ダンテと古代詩人たち 2. 古代世界と近代世界 3. 中世 4. ラテン中世 5. ロマーニア

第3章 文学と教育
1. 自由学科 2. 中世における artes観 3. 文法 4. アングロ・サクソンとカロリング朝の学問 5. 教材用の著作家 6. 大学 7. 箴言(命題)と範例

第4章 修辞学
1. 修辞学の評価 2. 古代における修辞学 3. 古代修辞学の体系 4. ローマの古代末期 5. ヒエロニムス 6. アウグスティヌス 7. カシオドルスとイシドルス 8. ars dictaminis 9. コルヴァイのヴィーバルトとソールズベリーのヨハネス(ジョン) 10. 修辞学・絵画・音楽

第5章 トポスとトポス論
1. 弔慰のトポス 2. 歴史的トポスとトポス論 3. 装われた謙遜 4. 導入のトポス 5. 結尾のトポス 6. 自然への呼びかけ 7. 逆立ちした世界 8. 少年と老人 9. 老婦人と少女

第6章 女神「自然」
1. オウィディウスからクラウディアヌスへ 2. ベルナルドゥス・シルウェストリス 3. 男色(ソドミー) 4. アラヌス・アブ・インスリス 5. エロスとモラル 6. 『バラ物語』

第7章 隠喩法
1. 舟航にかんする隠喩 2. 擬人の隠喩 3. 食物にかんする隠喩 4. 身体にかんする隠喩 5. 芝居の隠喩

第8章 文学と修辞学
1. 古代の詩学 2. 詩文(韻文)と散文 3. 中世の文体体系 4. 中世詩文における法廷弁論・政治弁論・頌詞 5. 表現不能をあらわすトポス 6. 凌駕のトポス 7. 同時代人への賛辞

第9章 英雄と支配者
1. 英雄の本質 2. ホメロスの英雄たち 3. ウェルギリウス 4. 古代末期と中世 5. 支配者の賛美 6. 武芸と学問 7. 魂の貴族 8. 美

第10章 理想的景観
1. 異国ふうの動物相と植物相 2. ギリシアの詩文 3. ウェルギリウス 4. 自然描写にたいする修辞学的契機 5. 杜 6. 悦楽境 7. 叙事的景観

第11章 詩と哲学
1. ホメロスと寓意(アレゴリー) 2. 詩作品と哲学 3. 異教的古代末期の哲学 4. 哲学とキリスト教

第12章 詩と神学
1. ダンテとジョヴァンニ・デル・ヴィルジリオ 2. アルベルティーノ・ムッサト 3. ダンテの自己解釈 4. ペトラルカとボッカッチョ

第13章 詩神ムーサイ

第14章 古典主義
1. ジャンルと文筆家一覧 2. 「古い者たち」と「新しい者たち」 3. 教会における正典(カノン)形成 4. 中世の正典(カノン) 5. 近代の正典(カノン)形成

第15章 マニエリスムス
1. 古典主義とマニエリスムス 2. 修辞学とマニエリスムス 3. 形式的マニエリスムス 4. 要説 5. エピグラムとポアント様式 6. バルタサル・グラシアン

第16章 象徴としての書物
1. 比喩に関するゲーテの論 2. ギリシア 3. ローマ 4. 聖書 5. 中世初期 6. 中世盛期 7. 自然という書物 8. ダンテ 9. シェイクスピア 10. 西と東

第17章 ダンテ
1. 古典作家としてのダンテ 2. ダンテとラテン語・ラテン文学 3. 『神曲』と文学的ジャンル 4. 『神曲』における範例的人物 5. 『神曲』の人物構成 6. 神話と予言 7. ダンテと中世

第18章 エピローグ
1. 回顧 2. 俗語(自国語)文学のはじまり 3. 精神と形式 4. 連続性 5. 模倣と創造

余論
I. 中世における誤解された古代
II. 敬虔の定句と謙遜
III. 隠喩としての文法的=修辞学的用語
IV. 中世文学における諧謔と厳粛(1-6)
V. 古代末期の文芸学(1-3)
VI. 古キリスト教ならびに中世の文芸学(1-8)
VII. 中世詩人の存在形式
VIII. 詩人の聖なる狂気
IX. 永遠化としての文学
X. 娯楽としての文学
XI. 文学とスコラ哲学
XII. 詩人の誇り
XIII. 文体理想としての簡潔さ
XIV. 思考形式としての語源
XV. 数にもとづく構成
XVI. 数にかんする箴言
XVII. 中世における著作家の名乗り
XVIII. いわゆる「騎士の徳体系」
XIX. 隠喩としての猿
XX. スペインの文化的「遅滞」
XXI. 造形者としての神
XXII. 17世紀のスペイン文学における神学的芸術理論
XXIII. カルデロンの美術理論と自由学科
XXIV. モンテスキュー、オウィディウス、ウェルギリウス
XXV. ディドロとホラティウス

文献についての注意
訳者あとがき――「解題」をかねて
人名索引
事項索引