みすず書房

帝国の虜囚

日本軍捕虜収容所の現実

PRISONERS OF THE EMPIRE

Inside Japanese POW Camps

判型 四六判
頁数 408頁
定価 5,280円 (本体:4,800円)
ISBN 978-4-622-09527-9
Cコード C0021
発行日 2022年12月9日
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帝国の虜囚

アジア・太平洋戦争中、日本軍は戦地で捕らえた連合国の捕虜を一貫して虐待したというのが、今日でも欧米の共通理解となっている。映画『戦場にかける橋』や『不屈の男 アンブロークン』などにも見られるそうしたイメージは、どこまで現実を反映しているのだろうか?
1941年12月の真珠湾攻撃とマレー半島上陸から5カ月のうちに、日本軍は14万人以上の連合軍兵士と13万人の民間人を捕虜にし、満洲からジャワまで各地に急造した700カ所以上の収容所に収容した。混乱のなかで米兵捕虜の約4割が命を落とし、収容所で死亡したオーストラリア兵捕虜の数は、戦場の戦死者よりも多かった。
日本研究者である著者は、明治維新以降の歴史を精緻に踏まえつつ、シンガポール、フィリピン、朝鮮、福岡など特徴的な収容所を選んで捕虜たちが残した記録や証言にあたり、かれらの置かれた状況を立体的に再現する。日本側と捕虜側双方の人種偏見、朝鮮や台湾出身の軍属、アジア人や女性捕虜への目配りも怠りない。綿密な調査により、捕虜に対する過酷な扱いのほとんどは、日本側の計画の欠如、貧弱な訓練、官僚主義に起因しており、統一的な〈虐待〉方針が存在したわけではないことを裏付ける。また、収容所での虐待よりも、友軍による爆撃や移送中の魚雷攻撃で死亡する捕虜の方が多かった。
「何を記憶し、何を忘れ去るかは社会に委ねられているのである」(序章より)。戦争を総体として捉え、今日の捕虜や軍事法廷をめぐる問題を考えるうえでも欠かせない歴史研究。

目次

序章 広く知られる奇妙な歴史
第1章 近代化の旗手から無法国家へ
第2章 シンガポール──ひっくり返った世界
第3章 フィリピン──地獄のコモンウェルス
第4章 言葉の戦争
第5章 朝鮮──模範収容所の生と死
第6章 銃後の捕虜収容所
第7章 終わりと始まり
第8章 不当な手続き(アンデュー・プロセス)
第9章 歴史の虜囚──戦後のジュネーブ条約の再交渉
終章 二度と、再び繰り返さない

謝辞
解説 「無関心」が生んだ「無為無策」──捕虜虐待の「無責任体制」  内海愛子
アーカイブ資料
原注
索引

書評情報

井上寿一
(学習院大学教授)
週刊エコノミスト 2023年1月31日号
藤野裕子
(早稲田大学教授・日本近現代史)
「虐待の実態・原因 多角的に解明」
朝日新聞 2023年2月11日
堀川惠子
(ノンフィクション作家)
「虐待を招いた兵站崩壊」
読売新聞 2023年2月19日
一ノ瀬俊也
(埼玉大学教授)
「日本軍の捕虜待遇の現実」
日経新聞 2023年3月11日
町屋良平
(作家)
「現代のわれわれにとって捕虜とはなんだったのか」
新潮 2023年7月号