みすず書房

デモクラシーの現在地 電子書籍あり

アメリカの断層から

判型 四六判
頁数 312頁
定価 2,970円 (本体:2,700円)
ISBN 978-4-622-09545-3
Cコード C0036
発行日 2022年10月17日
電子書籍配信開始日 2022年10月28日
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デモクラシーの現在地

「相互的な(reciprocal)……これがものすごく大事な言葉だ」(序章より)。2018年4月、日米首脳会談後の会見で、トランプ大統領はこう言った。かつて福沢諭吉も説いたこの言葉こそ、戦後の日米関係がはらむ矛盾を照らし出すものだった――。
著者は、2018年4月から22年3月までの4年にわたり、朝日新聞の経済・通商担当特派員として、米中貿易戦争、コロナ危機、連邦議会襲撃、ロシアのウクライナ侵攻などに揺れるトランプ・バイデン政権期のアメリカを追った。変化の底流を探るべく、19世紀フランスの思想家トクヴィルの観察記『アメリカのデモクラシー』を手がかりに、貿易戦争の荒波をかぶる大豆農家、「幽霊病院」で再生をはかる旧炭鉱街、日米協力が深化する多国籍の半導体メーカー、河港プロジェクトに挑む全米一人口が減った町など、さまざまな「断層」の現場を訪ねる。その傍ら、米通商代表部(USTR)のR・ライトハイザーや「エレファントカーブ」で知られるB・ミラノヴィッチ、ノーベル経済学賞を受賞したA・ディートンなど数多くの当局者や識者とも対話を重ねた。〈草の根〉の人々と〈鳥〉の視点で考える識者らの取材をへて見えた、〈デモクラシー〉の可能性とは?
激変する超大国の肖像を通し、「存在の根幹にアメリカが深く関わる国」日本の針路をも問う、深層報告の決定版。

目次

序章 マール・ア・ラーゴの王
サンタモニカ/トクヴィルの導き

第1章 3月の砲声――米中貿易戦争
怒りと寂寥/3月の砲声/「保護主義」の内実/綿花地帯(コットンベルト)へ/ひとと資本の「裂け目」/分断の源流/貿易戦争の将軍/貿易戦争は階級闘争か/「敗軍の将」の勝利宣言

第2章 ひび割れる世界──アメリカと中国
ある外交官との再会/ロイ家の物語/ビジネスの論理/関与政策の挫折/「中国株式会社」の台頭/「勝者」の驕り/「二つの資本主義」の行方/ウクライナ侵攻と経済戦争/「見張る石(パランティア)」/「通商国家」日本の針路

第3章 超大国の蹉跌──コロナ危機 
急転直下の「戦争」/「今回こそ違う」のか/供給危機の現場へ/巨大工場の「英雄」たち/ファストフード店の祈り/「絶望死」の社会/リベラリズムの陥穽/自由主義の再興へ/青いカニの思い出

第4章 物語を取り戻す──グローバル化と民主主義
「ビッグ・アグ」への怒り/エコノミークラスの邂逅/ポピュリズムの「良い面」/「鍛冶場」と「第3の支柱」/防波堤としてのローカリズム/「幽霊病院」で/物語を書く/知られざる「内戦」/「復興」に向けて

第5章 半導体と空気調節──国家の復権
ディストピアの首都/国家なき「楽園」/スリーピー・ジョーの登場/財政政策の復権/「日本化」の恐れ/「底辺への競争」に歯止め/「釘一つないために……」/極小の宇宙で「官民連携」/日米の信頼が支える供給網/「シリコンバレーの問題児」の憤懣/「市場主導の産業政策」/「空気調節」/「9割がトランプ投票」の町で

第6章 咆哮と興奮──日米の虚脱を越えて
トランプの咆哮/無条件降伏と民主主義/客死した民権運動家/二つの大河が交わる町で/忘れ去られた人々/ハックとジムが目指した地/夢は続く/「新しい国制の興奮」

終章 ひび割れる世界に湧く泉
トランプの警鐘と限界/偽善と生きがい/小の虫と大の虫/「在所」のパトリオティズム/アメリカと日本/コーデル・ハルの生家で/民主主義への祈り

あとがき

書評情報

與那覇 潤
(評論家)
「クリーンさを諦めて」
東京新聞 2022年10月29日
短評
日本経済新聞 2023年1月14日
会田弘継
(関西大学客員教授)
「トクヴィルを案内役に描く現在・思索に満ちた米国取材記録」
週刊東洋経済 2023年1月28日号
宇根豊
(農と自然の研究所代表)
「気づけ〈在所〉からの反旗」
日本農業新聞 2023年5月21日