みすず書房

フォルモサ・イデオロギー

台湾ナショナリズムの勃興 1895-1945

THE FORMOSAN IDEOLOGY

Oriental Colonialism and the Rise of Taiwanese Nationalism, 1895-1945

判型 四六判
頁数 536頁
定価 6,050円 (本体:5,500円)
ISBN 978-4-622-09649-8
Cコード C0036
発行日 2023年11月1日
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フォルモサ・イデオロギー

17世紀以来の漢族系移民の入植地であり、清帝国の省であった台湾は、日清戦争後に日本へ割譲され、51年にわたりその植民地支配下に置かれた。本書は、植民地台湾において、ナショナリストたちがいかにしてその空間を自らのネーションとして想像するにいたったのか、それがなぜ祖国復帰を目指す中国ナショナリズムではなく「台湾ナショナリズム」として発展したのかを、その領域的基盤の形成とイデオロギー形成の両面から論じるものである。
日本の植民地主義は、地理的、人種的、文化的に近接する人々を支配し、国民的共同体に従属的に包摂することを目指すものであった。西洋への反動として生じた明治以来の日本の国民国家形成の延長であったそれは、西洋によって再び植民地化されることへの恐怖に囚われていたがために、植民地臣民に同化を迫りつつも、差異を保ち、自らの優越性を維持する必要があった。それは、類似性と差異性を恣意的に操作し、周縁の人々を東洋化することで自らの東洋化に抗う〈東洋的植民地主義(オリエンタル・コロニアリズム)〉であった。
しかし台湾人をして「弱小民族」としての共通の運命を自覚せしめ、台湾を一個のネーションとして想像させたのは、日本の両義的で差別的な包摂にほかならなかった。1920年代に生じた自決的民族の想像は、その後の反植民地闘争や台湾人内部での論争を通じて、洗練された〈フォルモサ・イデオロギー〉として分節化されていった。
台湾ナショナリズムの原点を探る、著者の里程標的論考。

目次

旅の途中にて――日本語版への序文

謝辞

第1章 植民地台湾とナショナリズムの諸理論
第1節 台湾ナショナリズムという問い
第2節 文献の検討
第3節 本書の主張
第4節 本書の構成と方法論

第2章 差別的包摂――周縁における日本の植民地的国民形成
第1節 はじめに
第2節 大日本帝国再考
第3節 差別的包摂――周縁における日本の植民地的国民形成
第4節 小結

第3章 ナショナルになってゆく――政治的闘争と台湾国民国家の言説(1919-1931)
第1節 はじめに――国家に反逆するネーション
第2節 割譲――分かたれた想像の出発点
第3節 「台湾は台湾人の台湾ならざるべからず」――同化主義と自治主義の相克
第4節 ネーションとは何か?――左右の対立
第5節 小結――武装解除された預言者?

第4章 ネーションになる――文化的抵抗と台湾民族文化の言説(1919-1937)
第1節 はじめに
第2節 文化の誕生――1919-1921
第3節 文化の崩壊――1923-1929
第4節 文化の再生――1930-1937
第5節 小結――断ち切られた想像

第5章 東洋的植民地主義オリエンタル・コロニアリズム)下のナショナリズム
第1節 台湾と植民地ナショナリズムの〈アンダーソン=チャタジー・テーゼ〉
第2節 沖縄および朝鮮によるテーゼの検証
第3節 結語――近代性、そして主体形成の二つの論理

補論
国民国家の拡張と初期の帝国形成――イングランドのケルト辺境併合、アメリカの大陸的拡張、日本の北東アジア辺境包摂の予備的比較
消滅の記念碑?――植民地時代後期における台湾ナショナリズムの悲哀に満ちた変容(1937-1945)

訳者あとがき(梅森直之)
原注

関連リンク

台湾ナショナリズムの原点を探して

訳者解題より(WEBみすずウェブサイト「新刊紹介」https://magazine.msz.co.jp/new/09649/)