みすず書房

20世紀ヴェネツィアが生んだ異才カルロ・スカルパ(1906-78)。その建築体験は、「ここ」にある気配と「むこう」への予感に充ちていて、特別だ。なぜ、そう感じるのか? そこには「空間を変移させる」デザインが仕組まれている。多数の写真と図を用いた分析により、物と人間の関係から生まれる空間の原理(仕組み)を明らかにする。
それを説き明かすにあたって著者は、古代ギリシア、古代ローマからゴシック、ルネサンス、バロック、モダニズム、そして均質空間へといたる建築の歴史を、空間解釈の歴史として定義しなおす。建築とは、物(構築的)であると同時に経験(現象的)であり、空間とは、それらをつなぐ人間の能力である、という視点が、あらたな建築空間への鍵となると考えるからだ。
伝統と近代、建築と都市、新しい物と既存の物、人工物と自然物――それらを統合する空間にとりくみ、歴史的到達点としての建築空間を創りだしたスカルパ作品を読み解く、真摯で果敢な建築空間論。

目次

はじめに

第I部 建築の空間論
第1章 建築空間とは何か
なぜ建築の空間に着目するのか?
  そもそも、なぜ建築のデザインについて考えるのか
  なぜ空間に着目するのか
  建築の空間について言われていること
  建築史における「空間」の微妙な位置づけ
  均質空間の「幻想」
建築空間の定義(仮)
  建築空間とは?
  建築空間を三者関係で考える(1) 日常的な空間の場合
  建築空間を三者関係で考える(2) 特別な建築空間の場合――西洋建築の空間
  建築空間を三者関係で考える(3) まとめ
空間デザインのテーマ
  建築空間の仮定義から考えられる空間デザインのテーマ
  機能的空間や均質空間と、混成空間の違い
  日本建築の空間
  並列的空間から重層的空間へ
空間デザインと権力
  目に見える権力:様式化した空間デザイン
  目に見えない権力:効率化した空間デザイン
  人を動かす空間から、人が動きやすくなる空間へ
カルロ・スカルパについて 

第2章 建築空間の仕組み
三つの空間図式――放射空間・包囲空間・開口空間
穴と群――空間変移を引き起こす二つの仕組み
  《穴》の空間変移
  「空間変移が浮かび上がる」とはどういう意味か
  《群》による空間変移
建築空間概念のまとめ――定義・デザインのテーマ・仕組み
空間概念とは一般的なものか? 特別なものか?
カルロ・スカルパの建築作品に見られる空間変移のデザインパターン
  [リスト]《穴》のデザインパターン一覧/《群》のデザインパターン一覧
    筆者が訪れたカルロ・スカルパの作品一覧
  《穴》のデザインパターン
  《群》のデザインパターン
建築空間の仕組み まとめ
空間図式と変移パターンを組み合わせた四極構造

第II部 空間論の広がり
第3章 先行理論との関連
「第三の空間概念」に関連する理論
  ギーディオンの「第三の空間概念」
  シュマルゾーの「三次元空間」
  ヒルデブラントの「視覚表象」と「運動表象」
  ギブソンの「包囲光配列」
  ヴェルフリンの「触覚的(彫塑的)」と「視覚的(絵画的)」
  コーリン・ロウの「実の透明性」と「虚の透明性」
  [コラム]ル・コルビュジエの作品に見られる空間変移
均質空間に対抗する理論
  ルイス・カーンの「変化する空間概念」
  ノルベルグ=シュルツの「実存的空間」
  原広司の「空間図式」と「孔」
  槇文彦の「グループ・フォーム」と「奥」
  クリストファー・アレグザンダーの「セミラチス」
  香山壽夫の「モチーフ」
第4章 カルロ・スカルパ建築の経験
カノーヴァ美術館 石膏像ギャラリー(ポッサーニョ、1957)
ヴェネツィア・ビエンナーレ 彫刻庭園(ヴェネツィア、1952)

あとがき
図版リスト
文献リスト