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『鶴見俊輔書評集成』全3巻完結

今年7月から刊行のはじまった『鶴見俊輔書評集成』は、当初の予定より早く、11月21日発行の第3巻(1988-2007)をもって完結することができました。ご高齢ながら相変わらずスピーディーな著者のお仕事ぶりには脱帽いたしましたが、関係者、そしてなによりも読者の方々のお力添えがあってはじめて実現できたことです。この場を借りまして、深く御礼申しあげます。

1949年に執筆された初期の名編「人生はひとつの舞踏 ハヴェロック・エリス『自叙伝』」から、今年8月に脱稿、10月に刊行されたばかりの「哲学の母 川上弘美『パレード』解説」まで、今回の仕事をつうじて、著者の思考の柔軟性と一貫性をあらためて感じました。かくも多岐にわたる領域への著者の好奇心と関心は、どうして生まれたのか。その根っこについて、著者自身はご自分の幼年・少年時代に関係づけて何度か語られていますが(たとえば『期待と回想』(上下、晶文社、1997)や『戦争が遺したもの』(上野千鶴子・小熊英二との対談、新曜社、2004))、それとともに、そのつどの時代に対峙して批判精神を練り上げていくエネルギーを多方向にさぐっていった過程や結果が、著者独自のスタイルを生んでいったからではないかと私は思います。既成の学問では収まりきらない反骨的でプラグマティックな意志が、鶴見俊輔という思想家をつくりあげていった。その姿勢と具体的実践は『書評集成』にくっきりと刻まれています。

第3巻の校了が近づき、巻末に付すために、全3巻の掲載文の書誌一覧をつくりました。全221編の初出から『鶴見俊輔著作集』『鶴見俊輔集』はじめ、その後の単行本への収録先を調べながら、出版の意義についていまさらながら考えました。鶴見俊輔という個人としての思想家は、出版社や編集者がいなくても存在したかもしれない。しかし、共感や批判もふくめて、その思想を受けとめ、世代を超えて引き継いでいくためには、出版という営為が不可欠であった。ちょっとしたアイデアから原稿を依頼したかつての雑誌編集者から、それを素材に編んだ単行本編集者、さらにその全体を再構成して著作集のかたちで刊行を決断した出版社にいたる情熱と責任がなかったら、今日の鶴見俊輔という存在はなかった。ましてや『書評集成』のような企画が生まれるはずもありませんでした。「書誌一覧」にも記しましたが、今回収録した221編を世におくられた編集者・出版社に、あらためて敬意を表したいと思います。

(編集担当・守田)




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