みすず書房

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N・レーン『ミトコンドリアが進化を決めた』

斉藤隆央訳

大好評、たちまち重版

2008年1月6日の読売新聞書評欄で、福岡伸一氏が本書『ミトコンドリアが進化を決めた』をとりあげ絶賛されました。
(福岡伸一氏書評は、本よみうり堂「書評」1月7日http://www.yomiuri.co.jp/book/)

つづいて1月27日の日本経済新聞で垂水雄二氏、2月3日の朝日新聞で渡辺政隆氏と書評続々。刊行からわずか2週間でたちまち重版です。

■ミトコンドリア学が生命史の再解釈を迫る

21世紀も進化生物学の躍進が続いている。そんななか注目される、進化の「特異事象」(singularity)という概念は、生命進化のシナリオ全体の再解釈につながる鍵かもしれない。数十億年の進化史上にただ一度だけ起こり、その後の進化の方向を決定づけた事件。ミトコンドリアの出現もその一つである。ミトコンドリアが進化史上に果たした真の役割を生物学者たちが絞り込むにつれて、生物の多細胞化と複雑化、二つの性、老化などの深遠な意義が明らかになりつつある。私たちは幸運にも、同時代にその壮大な謎解きに立ち会える――『ミトコンドリアが進化を決めた』の読者は生命史のシナリオの転換を目の当たりにするだろう。

ミトコンドリアは奇天烈な名前に相応しく、長らく細胞内の謎めいた「異物のようなもの」としてとらえられてきた。ミトコンドリアが本来、文字通りの意味で「異物」であったことが定説となったのは比較的最近だ。ひと昔か、ふた昔まえの高校の先生は、ミトコンドリアについてはそのへんてこな名前と、迷路のような形と、呼吸に関わっていることなど、2、3の特徴を覚えればいいと生徒に教えたかもしれない。が、それもいまは昔。ミトコンドリアとそのゲノムに関する知見は今日、めまいのするほど広範な生物学の領域で決定的な役割を果たしている。

本書が描き出す驚くべき世界をほんの少しだけ紹介しよう。ミトコンドリアはいまこの瞬間も、生物エネルギーの発生源として、あるいは第二の細胞核として、私たちを含む生物たちの生殺与奪の権を握り、進化の舵までも握り、物理的にもこの地球上で最も繁栄している――計算上、人間の体重の10%以上はミトコンドリアだという。つまり、ミトコンドリアはあなたや私の生命そのものだ(自分が「1割以上ミトコンドリア」だったとは、今日まで気づかなかったでしょう?) そして生命史のページをめくれば、肝心なところにはいつもミトコンドリアの名が出てくる。ミトコンドリアは、P・K・ディックのユービックのように、あらゆる場所、あらゆる存在とその意味のなかに遍在しているのだ。この陰の支配者がいかに生物界を操っているか、その恐るべきからくりを知れば、あなたの生物観と生命史観の全体が塗り替えられるだろう。

『ミトコンドリアが進化を決めた』の中で著者が問い、そして福岡伸一氏に(おそらくは感嘆と留保、両方の意味を込めて?)「鮮やか過ぎる解答」と評された答えを導き出している、いくつかの命題を最後に挙げておこう。これらの命題に興味があるかたはぜひ本書を手にとり、進化研究の醍醐味をご堪能あれ。

  • 地球上で生命はどのように誕生したのか?
  • なぜ真核生物だけが大型化や複雑化を遂げ、細菌は単純なままなのか?
  • なぜミトコンドリアがすべての高等生物の進化に必須だったのか?
  • なぜ、どのように細胞は、自死(アポトーシス)の仕組みを獲得したのか?
  • 人類の先史時代は性について何を語ってくれるか?
  • なぜ性はふたつあるのか?
  • なぜミトコンドリアは生物に老化をもたらし、ついにはわれわれを殺すのか?



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