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宇野邦一『映像身体論』

著者からのメッセージ

『映像身体論』は、私のはじめての映画論だけれど、映像と身体を考えながら、同時にこれまでに書いてきたことの多くを点検することになった。まず映像のほうにもぐりこんで、もういちど身体のほうに出ていく、という道をたどっている。当然ながら、映像は知覚される。映像を見ること、見せることは、知覚を操作することである。そういう意味で、映像はさまざまに知覚を操作する力がせめぎあう場所である。映像はただ二次元のイメージではなく、映像を知覚する身体の奥行きのなかで、さらにはその身体を規定する歴史的奥行きのなかで考えなければならない。

そこでそれぞれの映像が、どういう種類の力を生み出し操っているのか、これを批評することはそのまま、映像によって作動している私たちの社会の力関係を思考することにつながる。ドゥルーズのように、映画の〈時間〉を哲学することは、〈空間〉のなかで明らかに見えている映像における見えない襞を思考することを要請する。見えない襞にはさまざまな力関係が、生のドラマが折りたたまれているのである。それはただ見えないのではなく、見ようとすれば見えるものでもある。

時間においては、たしかに毎日、毎年というふうに同じことが繰り返されるが、生きられる時間は刻々変化して、とらえがたいねじれや渦や襞を重ねていく。私も、私の身体も、この同じ時間に対応しているかぎり同じものとして現れるが、同じものの背後には、目くるめくようなカオスがある。この本のほんとうのテーマは、このカオスである。

(宇野邦一)

■じんぶんや第四十講・宇野邦一選「映像身体論」のお知らせ[終了しました]

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