みすず書房

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名和小太郎『個人データ保護』

イノベーションによるプライバシー像の変容 [3月刊]

著者からのメッセージ

20世紀は、あいつぐイノベーションが伝統的な社会秩序を破壊し、これを再構成する時代であった。この破壊と再構成のプロセスを、論点をプライバシー保護にあて、これを事実にそくして理解してみたい。これがこの本の狙いである。いま事実にそくしてといったが、これはプライバシー保護という社会現象を、こうあるべしといった理念を外して観察してみた、くわえてその結果を近未来へと外挿してみた、という意味である。

問題はその事実として何をとるのかにある。私はそれを米国の判例から選ぶことにした。判例はその社会における既存秩序のほころびを示す指標である、と見なせるので。私は「X and プライバシー」というキーワードで判例データベースを走査し、ここで引っ掛かってきた出力を材料にした。「X」としては、たとえば「盗聴器」「赤外線監視カメラ」「クッキー」「RFID」「データ・マイニング」「DNAデータバンク」「脳指紋法」を入れてみた。米国の判例を利用したのは、第一に米国に先進事例のあること、第二に米国の判例データベースが完備していること、この二つの理由があるためである。

手前味噌になるが、この本の効用を吹聴しておきたい。上記のキーワードに示したように、私はこの本を法律の枠組みによってではなく、技術の尺度にそくして記述した。ここに元技術者としての私の、そして元企業人としての私の、好み、くせ、思いを示したかったためである。だから、すくなくとも目次については類書なし、と言い切れるはず。つまり、この本は単なる逐条解説でもなければマニュアルでもない。プライバシーに関する社会史あるいは技術論の体裁も併せもっている。つけ足せば、私は多様な論点でたくさんの解を紹介しようと試みた。そのなかには暫定的な解あるいは宙ぶらりんの解も少なくない。この点、この本は大学院の学生諸君にとってはテーマ探しのためのガイドになるとも思う。

(名和小太郎)

◆名和小太郎の本



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