みすず書房

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斉藤道雄『治りませんように』

べてるの家のいま

はじまりは13年前、報道記者の「取材」だった。それが、いつ、どんなできごとが機となって、テレビ番組の放映後も著者を足しげく浦河に通わせ、べてるの家のメンバーとの交わりを重ねさせることになったのか。
その答えは、すでに前作『悩む力 べてるの家の人びと』のなかに語られている。自分をつねに忙しくさせ、喜怒哀楽を封じ込めた「がんばる人生」に駆り立ててゆくなかで見失ってしまった大切なもの――それをもういちど見いだすきっかけとなるものが、べてるの家には、たしかにあったのだ。

「べてるに来ると病気が出る」――べてるのこの標語は、言い得て妙だ。病気の人に会いにきたつもりの健常者は、あるときふっと不確かな感覚にとらわれる。病んでいるのは本当はどちらなのか、と。
競争に支えられたこの社会では、だれしも、自分のむきだしの感情、弱さ、ダメな部分をあけっぴろげに他人に見せられない。なのに、ここではそんな弱い、問題を抱えた自分、がんばれない自分を隠さなくてもいい。そんな自分を排除する者もいない。自分の弱さを相手の前にひろげるとき、相手はただそばにいて、聞いてくれる。その安心感、人の「ぬくさ」。

『悩む力』から8年をへて、著者は、ますます浦河とべてるの家に引きつけられ、彼らとともに多くの時を過ごしてきた。そのなかから生まれたのが本書『治りませんように』だ。
幻聴や妄想、病気がもたらすさまざまな苦労……服薬や注射という療法で症状をなくすことに汲々とするのではなく、その苦労はべてるの家で「当事者研究」として、語る者、そして聞く者の双方からさまざまな思いと言葉を引き出し、新たな視点が据えられていく。さらに、そうした苦労は、あるとき人を思いもかけない地平へ運んでゆき、ふつうならば一瞬のつながりさえ想像できないような見知らぬ他者との邂逅を可能にするかもしれないのだ。
この人生で人が悩むこと、苦労すること、本当のたいせつな価値に生きること……べてるからのメッセージ。

べてるねっと http://bethel-net.jp/




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