トピックス
ズッカー/ブラッドレー『性同一性障害』
児童期・青年期の問題と理解
鈴木國文・古橋忠晃・早川徳香・諏訪真美・西岡和郎訳
心と体の性別が一致しない性同一性障害。その大半は子どもの頃から自分の性別への違和感に悩み、苦しんでいることがわかってきた。日本においても、これまでほとんどなかった小・中学生の受診がしだいに増え、最近では学校が性同一性障害の児童や生徒の訴えを聞いて、心の性にあわせた学校生活を認めるケースも出てきた。
だが性同一性障害がいったいどのような事態なのか、その詳細を理解するのはまだ一部の人に限られているのが実情だ。とくに、従来の性同一性障害の受診や研究は大人を対象にしたものがほとんどで、子どもの性同一性障害についてはほぼ蓄積のない状態といえる。
本書はカナダにある世界有数の性同一性障害の研究機関において、豊かな臨床データを基に、おもに児童期と青年期の性同一性障害の実情を明らかにしようとするものである。「そもそも障害と呼べるのか」という点から出発し、心理学、精神医学、そして生物学から社会学まで、あらゆる角度からその全貌に迫っていく。
さらに本書の大きな特徴をなすのは、多彩な質問用紙による聞き取りである。というのは、性同一性障害の本質は、「本人に聞いてみないとわからない」ということにあるからだ。たとえば、ある男性が周囲の人にどれほど女性らしく見えたとしても、結局のところは「自分をどれほど反対の性と感じるか」ということが性同一性障害の基本にある。そのため、受診や研究には本人への聞き取りが欠かせない。当事者と家族への丁寧な質問を基礎とした本書の試みは、性同一性障害を理解するための大きな手掛かりになるに違いない。
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