みすず書房

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出口顯『神話論理の思想』

レヴィ=ストロースとその双子たち

レヴィ=ストロースを読みこむ――直観にすぐれた読み、思想史的見取り図をさっと描きあげるような読み、いろいろありうるだろうが、この著者のようにピンポイントを突き、読みぬいて展望をひらくようなわざはなかなか余人の及ばぬところではないだろうか。『神話論理』の巻ごとに、繰り返しあらわれてくる言葉、それは「中空」だったり「山分け」だったりする。なぜレヴィ=ストロースはここでこのように書いたのか。ほんの小さなひっかかりを手がかりに、引用の原典からレヴィ=ストロースの他の著作、レヴィ=ストロース論はもとより関連文献を手もとにそろえて、関係性に目をこらし精細に再読をかさねていく。コミュニケーションとは、意味することとは、他者とは、人類学的歴史とは。ブリコラージュとは、無意識とは、冷たい社会とは、自然とは。

序に――「『神話論理』を読むには広い机がいる」。
なるほど、民族分布図に星座早見表、1900年前後にまとめられた民族誌や神話集も広げ(レヴィ=ストロースの生まれる10年くらい前の出版だ)、山のようなメモまでとりながらの読み方はすぐ真似できるはずがないけれど、それでもこちらもゲラの校正をはじめるだけで、『神話論理』の訳書5冊に原書4巻、ぶあつい民族事典と文化人類学事典、『遠近の回想』『はるかなる視線』『やきもち焼きの土器つくり』、古書で手に入れた『仮面の道』、2008年から10年にかけて出た生誕百年特集と追悼特集の数誌が、みるみる机にうず高く積みあがるのは不思議な快さだった。

あまりに浩瀚な『神話論理』は、本国フランスでさえ、「序曲」と「終曲」以外まだじゅうぶんには論じられてこなかったようだとあちこちできく。たしかに雄弁に全体の構想を語る「序曲」、それまでの〈われわれ〉nousの使用をやめてここからは〈わたし〉jeを主語に記述するのだと冒頭で断じる「終曲」には、目をひかれやすい。しかし、あいだを読みとばしてよいなど乱暴な。そんなことを誰がいえるだろう。これだけの分量と、813の神話、フランス語原書にして2000ページ余をかけヴァリアントまで数えると1500篇を超す〈神話が語る〉というこのスタイルが、レヴィ=ストロースの探求しようとしたものにとってはどうしても必要だったはずで、だから『神話論理』はプレイヤード叢書の著作集LEVI-STRAUSS OEUVRESにも収まらない大部の著作になったと思う。

『神話論理』のレヴィ=ストロース論は、緒についたばかりだ。




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