みすず書房

戦後精神の経験 II

藤田省三著作集 8

判型 四六判
頁数 792頁
定価 8,800円 (本体:8,000円)
ISBN 978-4-622-03108-6
Cコード C1331
発行日 1998年10月23日
備考 現在品切
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戦後精神の経験 II

「戦後精神の経験IIは、著者がしぱらく日本を離れ、イギリスから帰国しての第一声、1969年5月の「高度成長反対」から始まる。その翌月からは、「根拠律」「文明論之概略」といった表題で雑誌『みすず』の「巻頭言」が執筆される。その頃は、著者にとっても一つのターニング・ポイントの時期であった。

73年の「雄弁と勘定」は、著者の天皇制批判と人民主権論のセットの転調過程をよく示している。「高度成長」の下で新重商主義というのが急速に支配的になっていって、「勘定」的合理性が肥大化していくことによって、人民主権を支えていくような対立を通じての対話とか議論が社会的に消滅していく。したがってそういうものを支えていく文明史的条件の問い直しの必要が言われるようになる。

かくして70年代後半から著者は、人間と社会と文化の「原初的条件」を明らかにすることが同時にアクチュアリティーを意味するような20世紀的な学問に学びつつ、やがて『精神史的考察』『全体主義の時代経験』に結晶する前人未踏の領域に歩み入った。この著者にとっての最終ステージにあって、時代の証言として書かれた単行本未収録の作品のほぽ全てを収録する。

この巻には追悼文が多い。花田清輝4篇をはじめ、80年代には遠山啓・竹内好・吉野源三郎・石母田正、90年代には古在由重・廣末保・谷川雁・井上光晴、そして最後に丸山眞男とつづく。戦後精神の経験は失われ、一つの時代が終わろうとしている証しであろうか。