みすず書房

「人類の歴史の中には、〈最高の〉精神的次元と〈最も原始的な〉権力的次元とが入り組んだ争いが如何に多いことであろうか。……この歴史の悲劇的な迷路から我々人間を解き放つ道は先ずその迷路の構造を見極めようとする努力からのみ開かれる、と私は信ずる。」(序より)

かくして著者は、正統・異端の歴史的関連を把えることを通して、〈混濁の迷路〉からの解放の現代的方法を探るのを課題とし、その際、日本社会の異端の動態を追跡するという側面から、この課題に接近しようとした。

この「異端論」は元来、『近代日本思想史講座』第2巻、丸山眞男編「正統と異端」のために準備された。今より30年前、〈擬制の終焉〉あるいは〈イデオロギーの終焉〉が語られる時代であった。著者の関心は、「異端」の用例をたどって日本の思想史を古代にまで遡り、マルクス主義やキリスト教の論争史をめぐって、西欧の思想史全体にまで広がっていった。そして再び、天皇制的異端の独自性とは何か? ほとんど無限に拡大した知的視野の中に「日本における異端の諸類型」が捉えかえされる。

本巻は、すべて未公刊の論稿と記録によって構成される。ここに、画期的な歴史的構想力の所産が、はじめて読者の目に触れる機会を得た。