みすず書房

『バナナと日本人』『ナマコの眼』をはじめとする数々の著作で、多くの愛読者を持ちながら、惜しくも94年暮れに急逝したアジア研究者・鶴見良行。バナナ、ナマコはもとより、彼の関心は狭いジャンルの壁を軽々と超えた、極めて多岐に渡るものだった。エビ、ヤシ、漁港、漂海民、阿片……そんな彼が晩年、新たな情熱を傾け、精力的な取材を重ねていた場所がある。

遠くインド洋上に浮かぶ謎の島、オーストラリア領ココス島がそれである。かのダーウィンも『ビーグル号航海記』の末尾近くで、この孤島に上陸し、珊瑚礁形成をめぐる重要な仮説を記している。

著者は、マレーシア・サバ州のオイルパーム農園の調査を行なう過程で、ココスなる名前の島に出会った。大海に独り浮かぶ珊瑚礁の島がはらむ奇妙な秘密。その謎にたぐり寄せられるようにして、ついに訪れたココスで、見出すことになった戦慄すべき真実とは?

雑誌「みすず」に好評連載されながら、著者の逝去で未完となった『ココス島奇譚』は、奇怪な植民地主義に翻弄され刻まれていった小島の歴史の視座から、日本のアイデンティティ信仰を鋭く抉る、衝撃的な遺作である。

著者夫妻がココス取材で撮影した貴重な写真60点、関連エッセイ、著者と深い親交のあった花崎皋平氏の解説を併録する。