みすず書房

鶴見良行の軌跡を考えるうえで、重要なキーワードが「海」である。とりわけ彼が注目したのは、国家や政府の枠組みを離れ、無国籍的ないし多国籍的に活動する海の民だ。住所不定に動き回り、近代国家にとって、実に始末の悪い存在である漂海民、その生き方こそが、著者の脱領域的思考に通底し、このうえない刺激を与え続けたのであった。

本巻は、そんな彼が書き続けた東南アジアの海民論を初めて一冊に集成した。

多島海において史上、数々の重要な役割を果たし続けながら、かの著名なるマラッカ海道の影に隠れたマイナーな存在である「マカッサル海道」。その歴史に光を当て、植民地主義に毒された東南アジア理解に痛棒を加える力作『海道の社会史』を中心に、遺作の一篇「海を渡る人びと」に至るまで、精力的に歩き、語り、論じ続けた興味つきない〈海/海民論〉16篇を収める。