みすず書房

アリアドネからの糸

判型 四六判
頁数 392頁
定価 3,520円 (本体:3,200円)
ISBN 978-4-622-04619-6
Cコード C0095
発行日 1997年8月8日
備考 現在品切
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アリアドネからの糸

「この本に収めたものには、硬いものも、さほどでないものもあるが、前の二冊と比べても、際立って謎ときの意味合いを含んでいるように思う。つまり私が私なりに蓄積してきた経験や知識にもとずいてよりもむしろ私の乏しい推理と構成との力を費やして、私が踏み込んだことがない迷宮に入ろうとした試みである」(あとがきより)

『記憶の肖像』『家族の深淵』につづく中井久夫の第三エッセイ集。匂いや兆しなど、ニュアンスに対する著者のアンテナ感覚が生んだ文章は、これまで同様、多方向にわたる——いじめについて、本について、色について、記憶について、その後の阪神大震災について、PTSDについて、ヴァレリー詩の秘められた構造について、創造と癒し序説など、長短32篇と詩6篇を収録。巻末の「ロールシャッハ・カードの美学と流れ」は、ホームズ=ギンズブルグばりの推理を重ねたみごとな謎ときで、改めて著者の力量に驚かずにはいられない。その文章の一つ一つには、多層にわたる人間の可能性への思いが刻まれている。

目次

I
いじめの政治学
II
戦時下一小学生の読書記録/移り住んだ懐かしい町々/三幅対/医師は治療の媒介者/ロサンゼルスの美しい朝/清明寮に小豆島からオリーヴの木が来た/二度目のルミナリエ/ハードルを一つ上げる/日本の心配/感銘を受けた言葉/はじめの一冊/私の選ぶ二十世紀の本/私の「今」
III
赤と青と緑とヒト/症状というもの——幻聴を例として/記憶について/精神科治療環境論/喪の作業としてのPTSD/阪神・淡路大震災のわが精神医学に対する衝迫について/二年目の震災ノート/「こころにやさしい」社会
IV
リッツォス『反復』より/これは何という手か
V
「若きパルク」および『魅惑』の秘められた構造の若干について/詩を訳すまで/訳詩の生理学/脳髄の中の空中庭園——ヴァレリー「セミラミスのアリア」注釈/セミラミスのアリア/私の三冊
VI
「創造と癒し序説」——創作の生理学に向けて/ロールシャッハ・カードの美学と流れ

あとがき
初出一覧