みすず書房

リッチ&ライト

文学シリーズ lettres

RICHE ET LEGERE

判型 四六判 タテ188mm×ヨコ128mm
頁数 296頁
定価 2,970円 (本体:2,700円)
ISBN 978-4-622-04866-4
Cコード C0097
発行日 2002年5月 2日
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リッチ&ライト

リュシーは三十代最後の夏の休暇をスペインで過ごすことに決めた。マラガ、エステポナ、セビーリャなどアンダルシア地方の暑い夏。ひとりで始めた旅だったのに、思いがけない過去との出会い、そして新しい発見が彼女を襲う。言葉の奔流のなかで、異性愛、同性愛、近親相姦的な愛のからみあうさまが立ち上がってくる。そうなれば死者たちも黙っていない…。

ロベール・ブレッソン監督に選ばれてジャンヌ・ダルクを演じたのちに作家となったフロランス・ドゥレは、スペイン文学への深い造詣にもとづく数々の名作で、フランスでは最大級の評価を受けてきた。そのドゥレがフェミナ賞をかちとった代表作『リッチ&ライト』をようやくお届けできる。

編集者からひとこと

「私がフロランス・ドゥレさんと知り合ったのは、マジョーレ湖のほとりで開かれる映画祭でパネラーとして同席した折にです。しかし、そのときにはそうと知らずに、ずっと以前から私は、彼女のお父上を存じ上げていたのでした。」

フロランス・ドゥレ近影
五月の夜、日仏学院ホールの壇上に、作家ドゥレと斜めに向かいあった蓮實重彦氏は静かにこう語り始めた。1950年代後半、日本の大学のフランス文学研究室ならどこでも備えていた美しい書物があった。その『ジイドの青春』を著したジャン・ドゥレは、すぐれた精神科医であり、少年アンドレ・ジイドの心の葛藤からパーソナリティの本質を見抜いたこの名著は、時をおかずして小社から邦訳が刊行されている。いま見ると、月刊「みすず」創刊号(1959年4月)に《芸術家の病誌シリーズ》の一巻として予告されていた。

パリの病院を抜け出した患者が叩く玄関の扉をあけて、家内に導いた少女フロランスは、はたちの年にロベール・ブレッソン監督『ジャンヌ・ダルク裁判』(1961)に主演する。蓮実氏によれば「今日のように高名なマルクス主義哲学者のお嬢さんが女優として活躍する(ジャンヌ・バリバールのことか)時代とは異なり、そのためか、クレジットには母方の姓カレスになっていました。」

こんな紹介をうけたフロランス・ドゥレは、まず「今のお言葉に、私はいささか動揺しています」と応じて、それから、父とその蔵書にあった文学書のことなどを、親密な優雅さをもって深みのある声で語った。会場を埋め尽くした聴衆は誰もが魅了され、壇上の二人の対話に聞きほれていたと思う。

ドゥレの代表作『リッチ&ライト』は、夏のスペインを舞台にして、女性の愛をめぐる複雑な語りのフィクションだが、そこにも父と娘の主題は変奏されている。父の著作と同じ出版社から自作の日本語版が出ることについて、「ベル・コアンシダンス(素敵なめぐり合わせね)」と言って微笑んでくれたときは、こちらが顔を赤らめてしまった。

野崎歓氏による作家インタビュー(『すばる』8月号)を早く読みたい。(2002年6月 尾方邦雄)