みすず書房

本書は、若くして単身パリに留学し、その後オルセー原子核物理研究所の主任研究員として活躍した湯浅年子の、貴重な経験に裏打ちされた〈思い出と意見〉からなりたっている。
第二次世界大戦におけるフランスのナチスに対する抵抗、敗北間際のドイツ・ベルリンの様相、焦土と化した東京の風景、また思いやりにみちた恩師ジョリオ・キュリーとの心あたたまる師弟関係、ジャン・ゲーノー夫妻、リュシアン・クートーなど親しい人たちとの興味深い交友、そしてまた〈五月革命〉に関する鋭く精確な考察など、さまざまな対象のなかに、著者は女性科学者としてめぐまれた感受性と批評精神をはたらかす。そのしなやかな眼差しは、ひとつの生きられた時の記録であると同時に、大きく科学を中心にした現代史でもあるような空間をとらえている。
ながく異邦に生活し、さまざまな体験を味い、その間原子核物理の研究に研鑚してきた著者の生き方・感じ方の誠実さは見事な一貫性を保っているし、また、ジョリオ夫妻に親しく師事した著者があかしてくれる、偉大な科学者の素顔、その研究姿勢などは読者に新鮮な感銘をあたえるだろう。

[1973年7月初版発行]

目次

パリ随想
1 パンテオンのプロフィル
2 椿の花による想い出
3 五月革命のもたらしたもの
4 ブルターニュの北海岸
5 ラジウム研究所の今昔
6 フランスの論理と日本の論理
7 一七世紀の月旅行
8 ブタペスト暼見
9 古い日記から
付・五月革命のもたらしたもの

科学と人生
1 学者対話
2 ジョリオ・キュリー教授の想い出
3 科学と人生を想う
4 日本の科学者へ ジョリオ・キュリー

あとがき

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