みすず書房

30年以上にわたるフランスでの、ひたむきな研究の重みが美しく結晶し、詩情をたたえた文章が静かな感銘を呼んだ『パリ随想』につづいて、『続・パリ随想』をここにおくる。
“異国に病む”という体験から著者の澄んだ眼は、現代の病者対医師の問題、病者の権利義務の問題に注がれ、みごとな「病人憲章」の一章が生まれた。つづいて、人間の生と死の問題が、著者の身近の実例から省察される。それは、作家モンテルランの自決であり、科学者ラカサニュの自殺である。ブルターニュの小村の人影もない夕映えの荒磯の海辺に立っての「夕潮」の鮮やかな印象と、春5月、パリのマロニエの街路樹のさわさわと葉末を鳴らし、白・赤の花色しるき、ゆたかな生命の感情とのコントラスト。それは生への問であった。
フランス文明の根本にある「手仕事」の具体的実例として、レース編み女工、ゴブラン織工、セーヴル陶工らの世界をえがいた「手工芸考」。保井コノ先生、イレーヌ・ジュリオ・キュリー夫人、森有正氏への追想など、人間の生き方と世界の深さの感覚に、ひとびとの思いを誘うであろう。

[1977年9月初版発行]

目次

序に代えて
 リュシアン・クートー Lucien Coutaud 氏を悼む
病人憲章
 まえがき/1 発病/2 病院の診断から手術決定——その後の経過
夕潮
 アンリ・ド・モンテルラン/アントワンヌ・ラカサニュ教授
手工芸考
 レース編み女工/ゴブラン職人/セーヴルの陶器工
女性と科学
 1 女性と科学/2 保井コノ先生/3 イレーヌ・ジョリオ・キューリー夫人
宗教と科学の接点——森有正氏を悼んで——
再び古い日記から

あとがき
初出一覧

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