みすず書房

いのちをもてなす 電子書籍あり

環境と医療の現場から

判型 四六判 タテ188mm×ヨコ128mm
頁数 224頁
定価 1,980円 (本体:1,800円)
ISBN 978-4-622-07145-7
Cコード C0095
発行日 2005年5月23日
電子書籍配信開始日 2013年4月 1日
備考 現在品切
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いのちをもてなす

内科医として、保健衛生学徒として、国立環境研究所所長として、長年「いのち」をみつめつづけてきた著者が、人間と環境の生命をトータルにはぐくみ、もてなすための道程を綴る、滋味あふれるエッセイ集。

西洋医学のすき間を埋める今日的な統合医療のあり方、認知症(痴呆)老人の不安とケア、人生の終末期に向かう人びとにとっての生きがい、そして地球温暖化問題に現れている、地球という閉鎖系の環境世界——。私たち一人一人の「いのち」から、私たちを生かしている環境の「いのち」まで、自己と生命とのつながりを受けとめ、こころすこやかに生きるヒントがぎっしり詰まった一冊。

目次

I 医療がはぐくむ「いのち」
健康と病気を考える18のヒント/あたたかくもてなす——痴呆老人の不安とケア/お年寄りのこころ/痴呆老人とがん疼痛——なぜ痛みを訴えないのか/老人医療と死をみつめて禅の心を思う/「自分」のあり方で決まる死の意味

II 環境がはぐくむ「いのち」
環境問題をどう考えるか/環境と「いのち」——宮沢賢治とアメリカ先住民の環境観に学ぶ/環境と私たち——つながりの世界認識/全地球的環境問題としての地球温暖化問題——京都議定書にもふれて/「環境ホルモン」と子どもの教育/環境ホルモン問題とその影響評価/環境ホルモンと社会医学

III 「いのち」への途上で
保健師さんから学んだこと/ネパールからの便り/アラル海が語ること/漁業の町バルバーテの死/蛙とヒト/チビチリガマ(尻切れ鍾乳洞)/一臨床医の来歴

著者からひとこと

編集者の浜田優さんが、ある日突然この本の原型を示してくれたのには度肝を抜かれた。けしからんことに、題名も、内容の配置も、こちらがいくら考えても考えつかないほど完成されている。もちろん、これほど有難いことはない。そのせいか、この本を褒めてくださる方は、まず題名、装丁、そして裏表紙の筆者の顔写真がよろしいと言ってくださる。

エッセイの年代からすると、筆者の五十代半ばから現在に至る十五年がカバーされている。この期間は、航空工学の発達による地球の狭小化と、人間活動による地球の温暖化の影響が、ふつうの人にも感じられ始めた時期と一致する。
そんな時代の流れに流されながら、社会医学という「流れの先の人間社会の健康問題」を考える分野に身を置いていたのは偶然である。社会医学では、たとえば、エイズが社会に入ると将来どのような規模で流行するとか、環境変化の健康影響がなにか、が問題になる。
ここで、神谷美恵子によれば、人間がすこやかに生きるためには、地球上の外的条件(外なる自然)と身体の営みを常に調節する脳の働き(内なる自然)に対する無条件の信頼がなければならない。これらの自然は今後どう影響されるのか。

さてこの時期に同時進行的に自分がボケていく先を、これは自分自身をも大いに参考にしながら、推察する成り行きになった。しかしこれは、偶然ではなく必然である。
社会医学徒としてここでも将来予測をするならば、自分の体験する「内なる自然」は朦朧とした灰色の世界だが、その先は明るい。しかし「外なる自然」の灰色には、ますます暗さが加わるようである。私としては、将来「あのボケ老人がなにを阿呆なことを口走って」と、世人の憫笑を買う日が来るのを願うのだが。(2005年8月 大井玄)