みすず書房

「今や、月に一度くらい訪れて、静かにくぐり抜けるだけの駅。最近あの駅を見上げて、変な喩えだが、長じて精神科医となり、自分はいつのまにか駅みたいになったと感じる。それも、思い出の小さな駅。消えたはずだったが。今日も、人生の駅、心の駅として、人を送り、人を迎えるが、皆通り過ぎていくし、多くは戻ってこない。」

民衆のフォークソングから個人のフォークロアへ——時代や文化をこえてある〈心の詩〉を求め旅してきた著者は、心のことを言葉にする学問、精神医学・精神分析にたどりつく。心の内側と現実を〈橋渡し〉する知恵とアイデア、その実践と探究を歓びとするこのフィールドの周辺や境界、そして中間の領域で出会ってきた師、同志、学生たち…旅の間いつも見えないもののことを語り合ってきた著者の30余年の対話が描き出す、パーソナルな「精神分析史」。

目次

×原 由美(作曲家・パフォーマー/元筑波大学医学生)仕事と音楽の相互作用/×斧谷彌守一(言語論/ドイツ文学者)言葉の身体性のなかのリアリティ/×九州大学生(桂進也〔工学部〕+岡山太一〔法学部〕)+柳原奈央子〔教育学部〕パフォーマンスの社会——ウサギの幸せカメの幸せ/×鈴木 晶(翻訳家/精神分析研究者)物語は書き換えられるか?/×小此木啓吾(精神医学/精神分析医)現代社会と境界パーソナリティ——隠喩としての病理現象/×妙木浩之(精神分析学/心理臨床家) ウィニコットと日本語臨床/私はどうして心を扱う医者になったのか
再読して/コラム——「帰って来たヨッパライ」のエディプス・コンプレックス/「あの素晴しい愛をもう一度」の「共視」論/兎と亀の二重構造/「見るなの禁止」の対象関係論的理解/「喪」を追究した人の喪失/橋渡しと移行対象論/精神分析医を抱える環境