みすず書房

世俗の形成

キリスト教、イスラム、近代

FORMATIONS OF THE SECULAR

判型 A5判
頁数 376頁
定価 6,820円 (本体:6,200円)
ISBN 978-4-622-07190-7
Cコード C1010
発行日 2006年3月8日
備考 現在品切
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世俗の形成

著者は社会人類学者であり、「非西洋に対する西洋の言説の批判」をテーマに著述を続けている。その名は、まず人類学の世界において知られているが、本書に収められた論考は、さらに宗教学・政治学にまで射程をひろげる。
従来、人類学者にとって「宗教」とは、その普遍的本質を論じようと熱意を傾けてきた対象であった。その一方で、ある意味では自分たちの立つところそのものであり、何ら変わったところのないように思える脚下の制度、「世俗」について論じることには、さしたる緊急性を感じないままきていたと言える。その虚をついたのが、本書である。
著者はまず、啓蒙主義や今日のリベラリズムを含む「西洋の伝統」と「イスラムの伝統」との間にあるズレの構造を、丹念な記述的方法によって明らかにしていこうとする。そこから、西洋的近代化と功利的個人主義が現代の発展を判定するための基準である——のみならず、あらゆる伝統がその後に続くべき唯一の真性な軌道である、という考えの限界が論じられる。
世俗的近代性という、特殊に西洋的なモデルの再考を迫り、近代の権力と宗教的諸伝統の再布置を試みた、エキサイティングな書。

目次

謝辞
序章——世俗主義について考える

世俗
第1章 世俗主義の人類学とはどのようなものであろうか?
  起源を読む——神話、真理、権力
  予備的考察——「聖」と「俗」について
  神話と聖典
  シャーマニズム——霊感と感性
  神話、詩、世俗的感性
  民主的リベラリズムと神話
  結論のかわりに——世俗に関する二つの近代のテクストを読む
第2章 エージェンシーと痛みについて考える
  エージェンシーについて考える
  痛みについて考える
  宗教史と民族誌におけるエージェント的な痛みについて考える
  道徳的エージェンシー、責任、そして罰
  結論にかえて
第3章 残虐性と拷問について考える
  二つの拷問史
  拷問の廃止
  世界を人間化する
  意図的な残虐性を伴う行為——「拷問」を表象する
  自らを「残虐で屈辱的な扱い」に委ねること

世俗主義
第4章 人権で「人間」を救済する
  自然権に関するメモ
  主権的個人と主権国家
  人間の救済
  自己を所有する「人間」
  「人間」主体の包含と排除
第5章 ヨーロッパにおける「宗教的少数派」としてのムスリム
  ムスリムと「ヨーロッパ」の概念
  イスラムと「ヨーロッパ」の物語
  近代ヨーロッパの、移動する境界線?
  ヨーロッパ・リベラル民主主義と少数集団の代表=表象
第6章 世俗主義、国民国家、宗教
  ナショナリズムを世俗化された宗教と考えるべきであろうか?
  あるいは、イスラム主義をナショナリズムと見なすべきか?
  未解決の問題

世俗化
第7章 植民地時代のエジプトにおける法と倫理の構造転換
  法制度の物語
  なぜこの改革なのか?
  イスラム法の改革を通じてイスラムを改革する
  道徳的自律と家族法
  近代的「家族」
  近代的道徳のために世俗の法を定義する
  参考——中世のフィクフについて
  伝統的訓練としてのシャリーア

結論

訳者あとがき
索引