みすず書房

「藤田 精神的潮流の面でいえば、安保闘争を構成していったものは、ヤミ市的状況の精神ではないか。日本の戦後の原人性ね。ほとんどすべての人がヤミ市的暮らしを経ることによって生きてきた。これは原人性の原形質をもっている。法律の外で自分で生きるということを権利づけるという精神があるんですよ。(…)
谷川 あなたの説に従えば安保闘争というのはかなりアナーキーなところで闘われたということになりますね。
藤田 なりますね」

1998年完結の『藤田省三著作集』以来、その全体像に新たに息を吹き込む対談・座談のセレクション(全3巻)。第1巻の本書は、1960年5月19日、衆院本会議「日米新安全保障条約」強行採決直後からほぼ5年間、政治状況をめぐる発言にしぼって収録した。対するは江藤淳、武田泰淳、谷川雁、鶴見俊輔、日高六郎、丸山眞男、宮沢俊義、吉本隆明……。日本の1960年代、「安保闘争」とは何だったのか。政治的諸原理を根底的に問いつつ同時代を照射し、ひとりの「シトワイヤン」として行動した思想家の軌跡は、そのまま戦後史を圧縮して映し出す貴重なドキュメントである。解説・飯田泰三。

目次

I
「運動・評価・プログラム」  江藤淳
「現代の政治的状況」  石田雄/坂本義和/篠原一/隅谷三喜男/田口富久治/日高六郎/丸山眞男
「暴力」  岩井弘融/武田泰淳/丸岡秀子
「ゼロからの出発」  谷川雁/鶴見俊輔/吉本隆明

II
「『安保』以後一年 今日の思想と芸術」  観世栄夫/武井昭夫/針生一郎
「天皇制について」 石母田正/大江志乃夫/遠山茂樹
「分裂と連帯について」  鶴見俊輔
「黙示録の響き」  谷川雁

III
「憲法の過去・現在・未来」  宮沢俊義
「6・9共同行動の意味」  武井昭夫
「戦後民主主義の危機と知識人の責任」  石田雄/日高六郎/福田歓一