みすず書房

2005年11月、一建築士による構造計算書偽造の事実(耐震強度偽装事件)が公表されるや、日本全国に衝撃が走った。「モラルなき経済設計」と機能不全の検査体制が、「安全・安心」をもたらすはずの「終の栖」への国民的欲望を逆なでにしつつ、来るべき地震の恐怖を増幅させたからである。その一方で、いわゆる欠陥住宅とは別に、法律違反ではないものの1981年の新耐震設計基準に満たない「既存不適格」物件は、住宅総数のおよそ四分の一にあたる1150万戸と推計されている。つまりは、ヒューザー物件はそれ自身が史上最速のスクラップ&ビルドの実例と化すばかりか、防災名目により繰り返されてきた画一的再開発を助長し、都市の成熟、その持続可能性を導きうるリノベーションやコンバージョンといった道筋を瓦解させかねない。

建築が与うべき強度とは何か。「構造設計」とは何か。「耐震構造」はいかに歴史的に構築されてきたか。阪神大震災の復興過程はどのような経験を蓄積させたのか。さらに「耐震改修」に求められるデザインとは……。建築・都市をその多様性においてとらえるための、意匠・構造設計ほか各分野の専門家による問題提起と考察。図版約80点。

目次

五十嵐太郎「見えない震災」
金箱温春「構造設計とは何か」
青木茂「〈リファイン建築〉からの提言」
竹内昌義「記憶をつなげる耐震改修のデザイン」
南泰裕「不可知の次元——建築と地震をめぐる覚え書き」
倉方俊輔「〈耐震構造〉の歴史」
松原永季「〈建築の強度〉と〈まちの強度〉——まちのリノベーションへ」
松富謙一「ロジモクの将来をめぐって——都心居住としての路地長屋」
佐藤考一「既存建物の活用術——用途変更による建築再生の可能性」
平山洋介「飛び地のランドスケープ」

編者あとがき

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