みすず書房

なぜ絵画なのか。絵画とは何か。「それは原理的には三次元の二次元への写像ないし圧縮であり、と同時に三次元にあって二次元とかかわる、この意味で二つの次元にまたがることを宿命づけられた人間存在にとってまさに必要不可欠の媒体であり、したがって〈絵画の死〉などという究極の事態などありえないのだ。」(本書より)

これまで30年にわたって、一貫して現代日本の絵画が創作される現場に携わり、現代美術の批評界で「絵画といえば本江」と目される著者の、アクチュアルな「現代/日本/絵画」論集。

空間と奥行き、色、かたち、線といった平面作品に固有のイディオムによって、いわばモダニズム絵画の正統性を継承する立場から批評活動を展開してきた著者にとって、その志を共有する画家こそが、本書で取り上げられる37名のアーチストである。「いまここ」で創作を続ける現役画家たちとの、親密なレゾナンス(反響)が、現代日本絵画の豊かなひろがりを、おのずからふかく実感させるだろう。

目次

序章 絵画の行方
I 絵画の軌跡
山田正亮——回帰する絵画/辰野登恵子——世界と向き合う絵画/黒田アキ——メタモルフォーゼ/馬越陽子——太陽を探す人/遠藤彰子——蓋のない絵画/嶋田しづ——絵画と場所/小林正人——明るさについて/大谷有花——「絵画」の発見

II 版画の宇宙
戦後の版画——70年代を中心に/池田良二——記憶のアルカディア/山本容子——透明な観念/中林忠良——存在の奥底へ/河内成幸——現代日本のイコン/木村秀樹——秩序と氾濫/二村裕子——意識の外地

III VOCA展クロニクル
平面性について(1994年)/反問する絵画(1991年)/気配について(1996年)/きみはまるで判じ絵のように(1997年)/欠落について(1998年)/奥行きについて(1999年)/ヴィジョンについて(2000年)/空虚について(2001年)/断絶について(2002年)/ふたたび空虚について(2003年)/拡散について(2001年)/抵抗について(2006年)

IV 現代性の画家たち
日常性の絵画/楠本正明——空間の問題/伊藤洋一郎——存在の重さ/ナカムラ徹——絵画と時間/千住博——垂直への意志/中村一美——黒い横なぐりの風/奈良美智——崇高な絵画/日高理恵子——木とともに描く/水上央子——不連続の連続/太郎千恵蔵——皮膜について/渡辺紅月——親密なる他者/曽谷朝絵——光の画家/天野純治——境界そして/または表面/坂井淑恵——身体性の絵画/祐成勝枝——柔和な三次元性/丸田恭子——硬質な感性の画家/富岡直子——光の形而上学/津上みゆき——疾走する風景/村井俊二——分析的精神の画家/母袋俊也——風景そして/または絵画/上田奈保——噴出する身体/呉亜沙——他者としての私/稲田美乃里——滲出する光/坂本佳子——構築への意志

あとがき/掲載作品リスト/初出一

書評情報

美術の窓
2007年2月号
小林俊介(画家・美術史家)
赤旗2007年4月1日(日)
版画芸術
2007年3月号
公明新聞
2007年1月20日
月刊美術
2007年3月号