みすず書房

通り過ぎた人々 電子書籍あり

判型 四六判
頁数 168頁
定価 2,640円 (本体:2,400円)
ISBN 978-4-622-07288-1
Cコード C0095
発行日 2007年4月9日
電子書籍配信開始日 2013年4月1日
備考 現在品切
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通り過ぎた人々

花田清輝に見いだされ、学生のころより新日本文学会に加わり、2005年3月の解散時まで半世紀にわたって在籍した著者が、そこで出会った人々の思い出を書き残しておきたいと綴った。井上光晴、小野二郎、菅原克己、藤田省三ほか、とりあげられた18名はすべて物故者。
「自主独立的に誇り高い人々であったなぁ。団体なのに独往邁進、ではなくて、独往邁進する連中の団体が、あるときあり得たり、あり損ねたり。そんなおかしな空間と時間が、とにかくあった証拠の18例です。あぁ、おもしろかったなぁ。しょせん時勢はくそいまいましいまでにせよ、こんな人と時代があったことを、いささかお汲みとりいただければ、もって瞑すべし」
新日本文学会とはなんだったのか。軽妙なタッチでペーソス豊かに描かれた追悼録から、戦後日本を代表する文学運動体の盛衰が浮かび上がる。

目次

井上光晴
寺島珠雄
向井孝
菅原克己
関根弘
古賀孝之
石田郁夫
菊池章一
内田栄一
小野二郎
藤森司郎
久保田正文
畔柳二美
富士正晴
秋山清
藤田省三
庄幸司郎
田所泉
あとがき

著者からひとこと

本書の目次にならぶ18人のうち有名なのは数人で、あとは著者をふくめて聞いたこともないぞ、という評判らしくて、ごめんなさい。でも、文中には、かの吟遊詩人高田渡とか、著名な方々もちらちら登場しています。ほんと。
花田清輝、長谷川四郎、中野重治、平野謙、本多秋五、佐多稲子、壺井栄、原泉、筒井敬介、辻征夫……。故人とかぎらず現存の方々も、針生一郎、武井昭夫、鈴木志郎康、多田道太郎、小関智弘、津野海太郎、松本昌次、鎌田慧……。
やっぱり聞かない名があるぞ、などとこまかくこだわらないで、まぁ、お読みになってみてください。新日本文学会の文学運動なるものに、有名も無名も大差はなかった、のであります。

編集者からひとこと

「新日本文学会」と聞いて、たんに「ああ、左翼系の文学団体ね」と一言で片付けてしまう人もなかにはいることでしょう。しかし、一読巻置くあたわず「従来の古色蒼然たる『新日文』のイメージは、かなり刷新され」るにちがいありません(高崎俊夫氏、「図書新聞」2007年6月2日)。坪内祐三氏は「今や当代一の散文家かもしれない」と唸りつつ「小沢信男の軽やかな筆使いと適確な描写力によって、いつの間にか昔からの知り合いであったかのような錯覚におちいらせる。左翼嫌いの私も、この本を読んでいると、この人たちの仲間のような気がしてくる」と記しています(「週刊ポスト」2007年5月18日号)。
若い世代なら、登場人物どころか会の名すら知らないこともありえます。ですが、まずはご一読を。「あざやかなペンによる肖像画集。と同時にやや風変わりな20世紀の精神史と読める。小沢信男はもしかすると、のちの歴史家のための参考文献の一つを考えていたのではあるまいか。ここには戦後わが国の社会状況が精神状況とあわせ、これ以上ないほど的確に描き出されている」とは池内紀さんの評(「サンデー毎日」2007年5月27日号)ですが、18名の死者たちは、その身で新日本文学会のみならず戦後史の空間そのものを生ける過去として呼び起こしているのです。こんな人たちがいたから「われわれ」もいる、自然とそんな気持ちにさせられること必定の書、なのであります。

書評情報

坪内祐三(評論家)
週刊ポスト2007年5月18日号
塩山芳明(漫画編集者)
月刊 記録(アストラ)2007年5月号
池内紀(ドイツ文学者、エッセイスト)
サンデー毎日2007年5月27日号