みすず書房

脳科学と倫理と法

神経倫理学入門

NEUROSCINCE AND THE LAW

判型 A5判
頁数 256頁
定価 3,740円 (本体:3,400円)
ISBN 978-4-622-07315-4
Cコード C1045
発行日 2007年7月19日
備考 現在品切
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脳科学と倫理と法

本書は、神経科学の発展が倫理および法の枠組みに及ぼしうる影響について複数分野の専門家を集めて議論した、米国科学振興協会(AAAS)主催の研究会をもとに編まれた。神経倫理学という新しい分野の最初期の議論を跡付ける報告書として、今後の研究に多くの糸口を提供するものである。
研究会の議論のベースとなった4報の論文(第II部)は、専門的観点から問題提起するとともに、異なる専門分野間の焦点や見解の違いを例示している。5章では神経科学者が、自由意思・法における人格・責任の概念を科学が揺るがしうるかについて論じる。6章の前半では同じ命題が、法哲学の専門家によって検討される。
6章後半では法制度運用の場で生じうる実際的問題が考察され、7章はそれを引き継いで、プライバシーや自由の侵害の可能性、訴訟における神経科学的証拠の採用の可能性についてより具体的な検討を加える。8章は神経科学の発展の方向と、生じうる社会的摩擦を推論的に考察している。
以上の4報と研究会の場で出された意見をふまえてまとめられた報告書を第I部として収録。議論の俎上に載った課題を概観するこの部分だけでも押さえておきたい。
この研究会が、世界の神経科学を牽引する立場にあるAAAS主催であることも念頭に置いて読むべきだろう。先駆的な試みにともなう限界は考慮したうえで、本書に提示された顧問団の認識や姿勢が、市民の目に頼もしいと映るか、否か。いずれにしろ今後ますます、より多角的で濃密な、学際的対話が必要であることは明らかだ。

目次

刊行に寄せて  マーク・S・フランケル
謝辞  ブレント・ガーランド

第I部 問題のありか  ブレント・ガーランド
はじめに
第一章 脳機能計測と画像化
第二章 脳機能の操作
第三章 法律的諸問題の検討
第四章 将来的方向性
まとめ

第II部 専門論文
第五章 二十一世紀における自由意思──神経科学と法律に関する一考察  マイケル・S・ガザニガ、メーガン・S・スティーヴン
自由意思についての哲学的見方
自由意思の存在をめぐる神経科学的議論
決定論的世界における自由意思の存在
自動的な脳と解釈的な精神
要約
謝辞

第六章 新しい神経科学、旧知の問題  スティーヴン・J・モース・D
法における人の概念
法における責任の概念
人間性と責任に対する神経科学からの疑義
決定論の挑戦
責任に関する判断基準
インフォームド・コンセント
既存の法理論の見直し
市民の自由に対する脅威──プライバシー、予測、治療
正常な認知機能に対する増進操作
神経科学的証拠の許容性
結論

第七章 予測、訴訟、プライバシー、知的財産──神経科学の発展が法律および社会に与える影響   ヘンリー・T・グリーリー
神経科学的予測の可能性と問題
訴訟における神経科学の使用
守秘義務とプライバシー
特許
結論

第八章 神経科学の将来と法  ローレンス・R・タンクレディ
脳死
認知と法的責任能力
認知機能をふつう以上に高める
神経科学を利用した嘘発見器
神経科学情報濫用の可能性

用語解説
訳者あとがき
索引

"Neuroscience and the Law"参加者名簿

本書のもとになったワークショップ "Neuroscience and the Law" は2003年9月12-13日の2日間、米国科学振興協会 (AAAS) およびデイナ財団の主催でとりおこなわれた。その短縮版報告書(英文)は下記URLに掲示されている。
http://www.aaas.org/spp/sfrl/projects/neuroscience/Summary.pdf

ワークショップに招かれた参加者のリストを以下に示す。

ジュディス・C・アリーン (Judith C. Areen) ジョージタウン法律センター
ビッカ・バーロウ (Bicka Barlow) 弁護士
エリカ・ビーチャー=モナス (Erica Beecher-Monas) アーカンソー大学リトルロック校William H. Bowenロースクール
フロイド・E・ブルーム (Floyd E. Bloom) AAAS理事、Scripps研究所
ジョー・S・セシル (Joe S. Cecil) 連邦司法センター
ミン・W・チン (Ming W. Chin) カリフォルニア州最高裁判所
デボラ・デンノ (Deborah Denno) Fordhamロースクール
ハロルド・エドガー (Harold Edgar) コロンビア大学ロースクール
マーサ・ファラ (Martha Farah) ペンシルヴェニア大学
マーク・S・フランケル (Mark S. Frankel) AAAS
ブレント・ガーランド (Brent Garland) AAAS
マイケル・ガザニガ (Michael Gazzaniga) ダートマス大学
スティーヴン・P・ゴールドバーグ (Steven P. Goldberg) ジョージタウン法律センター
ヘンリー・グリーリー (Henry Greely) スタンフォード大学ロースクール
ザック・W・ホール (Zach W. Hall) 南カリフォルニア大学Keck医学部
D・ブロック・ホーンビー (D. Brock Hornby) メイン地区連邦地方裁判所
オーウェン・D・ジョーンズ (Owen D. Jones) アリゾナ州立大学法学部・生命科学部
アラン・I・レシュナー (Alan I. Leshner) AAAS
スティーヴン・J・モース (Stephen J. Morse) ペンシルヴェニア大学ロースクール
チャールズ・P・オブライエン (Charles P. O’Brien) ペンシルヴェニア大学医学部
ハスケル・M・ピトラック (Haskell M. Pitluck) 元イリノイ州巡回裁判所裁判官
アディナ・ロスキーズ (Adina Roskies) マサチューセッツ工科大学
バーバラ・ジェイコブス・ロズスタイン (Barbara Jacobs Rothstein) 連邦司法センター
エドワード・F・ローヴァー (Edward F. Rover) デイナ財団
ウィリアム・サフィア (William Safire) デイナ財団
クリスティナ・M・シェーファー (Kristina M. Schaefer) AAAS
ローレンス・タンクレディ (Laurence Tancredi) ニューヨーク大学医学部