みすず書房

最近は科学・科学者の旗色がとみに悪いように見える。問題が山積である。原発の度重なる事故隠しは醜悪な感じさえする。また、地震の予知はほんとうに可能なのか。偽装設計や食品偽装の問題、クルマや湯沸かし器やストーブのリコール、遊具や紙破断機の事故、さらには科学者によるデータ捏造からオーバードクターの問題や地球の温暖化などなど、われわれを脅かす事件を挙げ始めれば、もう切りがない。自然科学と文学をみごとに融合した寺田寅彦や中谷宇吉郎のよき時代、また、世界的な反核をめざした湯川秀樹や朝永振一郎の積極的な平和運動の時期はもう消え去ったのだろうか?
「本書は、科学をめざしている若者、ジレンマに悩む若い科学者、そして科学研究の内実を知りたいと思っている人、を念頭において書いたものである。科学者のあるべき姿を追求しつつ、科学の今を見つめ直し、科学の未来を考えるための素材を提供したいと考えたのだ」——現場より発せられた、岐路にある若い科学者たちへの最高の手引。

目次

はじめに
第一章 科学研究の楽しみと責任
研究の醍醐味
研究者としての楽しさと誇り
科学研究者に許された自由度
科学者としての三つの責任

第二章 科学研究の現場
懐疑主義
科学の方法と科学者のタイプ
科学研究の手順
論文の要件
レフェリーとの遣り取り
その他の成果の発表

第三章 科学者の倫理責任
科学上の間違い
ズサンな研究行為
「病的科学」
科学の「犯罪行為」
その他の逸脱行為
不正行為に関わる行動
科学研究上の「罪」
法律上の犯罪行為

第四章 科学者の説明責任
科学者という存在
科学の制度化
科学者という職業
研究費の仕組み
社会への説明責任
「負」のアカウンタビリテイ

第五章 科学者の社会的責任
科学の軍事化
現代の様相
フランク報告
科学者の平和運動
社会的責任の第一歩
さらに進んで社会のカナリアに
疑似科学批判をもつと

第六章 社会とともに生きる科学者
科学者の社会リテラシー 四つの規範
社会における科学リテラシー
科学館の活動
新しい博物学
若い研究者の養成
おわりに
あとがき

書評情報

石黒武彦
日本物理学会誌2009年7月号

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