みすず書房

パブリッシュ・オア・ペリッシュ

科学者の発表倫理

判型 四六判
頁数 192頁
定価 3,080円 (本体:2,800円)
ISBN 978-4-622-07334-5
Cコード C1040
発行日 2007年11月19日
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パブリッシュ・オア・ペリッシュ

近年、科学者がおこなった研究データのねつ造・偽造などの不正行為の深刻さが、科学界のみならず社会全体に衝撃を与える事例が頻発している。いま科学界で何が起きているのだろうか? 今日の科学界の抱える問題の数々に通底するのは、「パブリッシュ・オア・ペリッシュ(発表するか、それとも死か)」という標語であり皮肉である。
著者はこの問題について、国内無二の専門家として発言しつづけてきた。本書ではまず、科学者の自己規制や科学の自浄作用に頼るのが非現実的である事実を、科学者をとりまく現状の冷徹な分析から明らかにする。業界内の閉じた議論の対象でありがちだった、インパクトファクターや研究室内の教育のあり方の問題も取り上げる。
そして海外のさまざまな取り組みを例に、不正への対処のため整備すべき要素を多角的に考察するとともに、「発表倫理」の概念の枠組みを示し、本邦におけるその確立を呼びかける。不正防止策についても、「オーサーシップ」の厳格な適用など、具体的な指針を挙げている。
表沙汰になった不正事件の影響もさることながら、水面下で不正が必要悪のごとくまかりとおる現在のシステムが、意欲ある若者に科学への不信と絶望を与えているという著者の懸念は、科学界の内外で真剣に議論されるべきだろう。

目次

まえがき
第I部 なぜ発表倫理か
第1章 発表するか、それとも死か──パブリッシュ・オア・ペリッシュから特許で成功へ
パブリッシュ・オア・ペリッシュのはじまり/1950年代──大学の拡充と研究活動の強化/1960年代──研究志向の定着と研究情報の増大/パブリッシュ・オア・ペリッシュからパブリッシュ・アンド・ペリッシュへ/パブリッシュ・アンド・ペリッシュからパテント・アンド・プロスパーへ

第2章 公正な科学研究が私たちの生活を支える
社会は安全な情報と知識を求める/小さな政府からの転換、科学研究への規制/不正行為を定義する/ピアレビューへの疑問

第II部 発表倫理はいかに破られたか
第3章 求められたヒーロー──ベル研究所シェーン事件
研究者のスキャンダルか/研究倫理への関心は生物医学領域から/ベル研究所で発生したシェーン事件/シェーン事件の調査報告書/倫理ガイドラインの改訂/物理学界としての経験/事件をこえて

第4章 一番をめざす──Nature Medicine論文のねつ造
主要事件から学ぶ/オーサーシップから Nature Medicine 論文をみる/論文の助成機関をみる/実験ノート/筆頭著者Kの座右の銘は「精力善用、自他共栄」/研究室における教育・指導体制

第5章 私は不正な実験に関与していない──ES細胞ねつ造事件
劇的な変化/事件のはじまりは『ネイチャー』のソウル訪問記事/ファン教授グループの発表論文/発表論文数の年次変化/主要な発表誌は/ファン教授グループ論文で、最も多く出現する共同研究者と筆頭著者は誰か/コレスポンデンス・オーサーからみた『サイエンス』論文/オーサーシップの誤用/事件の教訓

第6章 成果へのプレッシャー──ポールマン事件
2000年の秋/どのようにして不正は見つかったのか?/バーモント大学の正式調査報告書/どのような妨害がなされたのか/偽りの研究データ/Annals of Internal Medicine 誌の論文撤回をめぐって/ポールマン博士と告発者の肉声

第III部 発表倫理を脅かすもの
第7章 インパクトファクターで研究者を評価できるか
研究評価とインパクトファクター/IFはどのように誕生したのか/インパクトという言葉、定義と問題/雑誌に含まれるレビュー論文の比率に注意/ゆがんだ被引用文献分布──平均値でよいのか、少数論文への集中/どのような誤用が存在するのか/編集者はIFを気にしている/JAMA編集委員長の見識とインパクトファクター

第8章 なぜ著者サインを偽造したのか
著者サインの偽造/告白の電子メール/学会誌への発表と撤回/学会誌編集委員会の対応/だれも本当の理由を尋ねてこなかった/誰のための医学研究なのか/教育機能の消失

第9章 なぜ私の論文が盗用されたのか──不正行為にはたす編集者の役割
不正行為への対応/COPEの発生/東京歯科大学教授の論文盗用事件と『日本医師会雑誌』の対応/臨床試験論文の撤回

第IV部 発表倫理をどう確立するか
第10章 オーサーシップ──著者になるのは誰か
ES細胞ねつ造事件への『サイエンス』編集委員長声明/論文生産量の変化と研究者の生産性/平均著者数の上昇/国際共著論文の増加/オーサーシップの定義が揺らいでいるオーサーシップの厳格な適用は不正行為の防止につながる

第11章 レフェリーシステムを再構築する
1665年学術雑誌の創刊時を振り返って/近年のレフェリーシステムへの関心/レフェリーシステムを検証する/レフェリーシステムは完全なフィルターか/編集者・レフェリー側の倫理を問う/コレスポンデンス欄からラピッド・レスポンスヘ/開けブラック・ボックス

第12章 不正行為を考える──スキャンダル・アプローチでなく
『科学者の不正行為』出版までの道/不正行為元年──2005年/シェーン事件をめぐるテレビ番組/インパクトファクターをめぐる狂騒/大学を中心とした学術研究の未来

あとがき
初出一覧
参考文献
索引

関連リンク