みすず書房

「よく書かれた小説はもっとも高密度の、人間的な、具体から抽象までの幅広いスペクトルを持つ、叡智のパッケージである。この本(トニ・モリソンの『パラダイス』)についてならぼくはまだいくらでも、かぎりなく、読む人がうんざりするまで、考えを展開することができる。ぼくはこういう読書の記憶を何百冊分か持っている。それは、やはり、どうしても本という形でしか所有できないものであると、コンピュータに向かってこの文章を書きながら、考えている」(これくらい重い内容は本にするしかない)。
文字の持つ呪術性の回復、サン=テグジュペリ像の変化、映画と本と田舎暮らしなど、本をめぐる今日的な省察からジョイスの『ユリシーズ』、フォークナーの時間と語りの問題や『野生の思考』と物語の擁護、岡本太郎の異文化に向かう姿勢への批判まで。たんに文学の領域にとどまらず、広く現在の文化や政治にかかわる問題にまで踏み込んだ出色のエッセー集。

目次

I
これくらい重い内容は本にするしかない
文学の呪術性を回復する
クレオールと物語の生成
三年後の「からっぽの洞窟」
サン=テグジュペリ像の変化
映画と本と田舎暮らし
ABC書店のために
炎の中に消えた本について
世界に一冊だけの本
II
フォークナーの時間と語り
『フィンランド駅へ』を読んだころ
人間に関することすべて
人は一所懸命に生きる——アリステア・マクラウドの小説
書評家の喜びと悩み
ユリシーズ賞選考記
ルポルタージュの成り立ち
エピファニーの連鎖反応
『野生の思考』と物語の用語
III
異文化に向かう姿勢——岡本太郎を例として
島への階梯
この都市の二つの像 あるいはオリエンタリズムの練習問題
カメラを持った狩猟者
あとがき

書評情報

丸谷才一
YomYom2009年3月号

関連リンク