みすず書房

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池澤夏樹『風神帖』『雷神帖』

エッセー集成 『風神帖』につづき『雷神帖』(11月10日)刊行

「この十年ほどの間に書いたエッセーの類を二冊にまとめるということになった時、やはり何か対になったタイトルが欲しいなと思った。世に対になったものは少なくないが、いざ探してみるとなかなかいいものが見つからない。ペテロとパウロでは伝道の書みたいだし、伯夷と叔斉も立派すぎる。もっとあっさり乾と坤とか宇と宙というものもあるが今ひとつイメージがはっきりしない。かといって陰と陽としたのではきっと陰の巻が売れないであろう。
そこまで考えた時、ふと宗達のあの絵が浮かんだ。風神と雷神。あれほどはっきりしたイメージは他にない。なんといっても元気だし、しかも滑稽味があってにぎやかだ」
(『風神帖』あとがき)

「風神と雷神、それぞれの名を借りてエッセー集のタイトルとしたのはいいが、そこではたと疑問が生じた。この二柱の神はどちらが神として格が上なのか。わからぬままに風神の方をさきに世に出した。行く先々、思うままに吹き荒れよ。衆生をして畏怖せしめよ。
そうすると、まだ手元に残っている雷神の方がいとおしくなった。
……
では、雷神も世に放つとしよう。いざ、雷鳴と電光をもって衆生を恐懼せしめよ」
(『雷神帖』あとがき)

こうして池澤氏にとってひさしぶりの、『読書癖』以来のエッセー集が出た。神格化された風と雷が向かい合って響きあう勇壮な2巻である(!?)。対をなすこの2冊はたんに文学の領域にとどまらず、広く文化や政治にかかわる現代的な省察から、さらには私的な経歴に及ぶ断想までを収めている。

まだ時季的に早いが、かかるエッセーの集成は正月の福袋に似ているかもしれない。魅力的な小物から大きなジャケットまで入っている。すなわち私的な断章から長尺の作家論、人びとの風景から本をめぐる考察までを収めたお買い得の2冊ということになる。連載とか書き下ろしでは抜けてしまう些事や細部が思わぬ真実を明かすこともある。池澤ファンにとっては早めの嬉しい贈り物であろう。




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