みすず書房

「37年という短い生涯を通じ、宮沢賢治はさまざまな時期にさまざまなかたちで郷土の6温泉と関わりをもった。湯治、仏教講習会、地質土性調査、遠足、観光と農業の連動構想、温泉遊園地の造園……。花巻にとどまり、郷土の生活と自然を土台とした彼の文学に、これらが関わらないなどということがありえようか。にもかかわらず、宮沢賢治研究の領域で〈温泉〉が注目されることは、わずかな例をのぞけば、これまでなかったといえる」
「宮沢賢治を取り囲んでいた文学的環境をめぐる議論から、これまで花巻温泉がこぼれ落ちてきたのはなぜか。そもそも、〈温泉〉や〈観光〉という角度から日本文学を捉えなおす研究が長らく皆無に等しかったことに根本的な問題があるのだろう。大正末から昭和初期の日本ほど〈文学〉が温泉や観光の発達と相関していた国はないと思われるのに、これは奇妙な欠落である」
宮沢賢治の生涯と作品を、温泉文化に育まれた想像力の発露として解き明かす書。すなわち、賢治がいかに東北の湯治文化に深く根づきつつ、最先端のスパ・リゾート開発に積極的に関わり、さらには近代そのものを批判的に捉え返した独自の環境思想を胚胎し、その実現をはかったか。心象スケッチからランドスケープデザイン、大地の「装景」へ——「イーハトーブ」は作品世界にとどまらない。図版多数収録。

目次



第I部 潜む湯治場
1 賢治と湯治
2 愉しき大沢温泉  夏期仏教講習会と「大事件」
3 温泉のフォークロア  「鹿踊りのはじまり」「なめとこ山の熊」
4 温泉の地学  稗貫郡地質土性調査
5 東の軽便鉄道、 西の電車 「藤根禁酒会へ贈る」
6 温泉鉄道の夜  「ラジュウムの雁」
7 イーハトーブの龍穴  「台川」「楢の木大学士の野宿」

第II部 華やぐ温泉リゾート
1 花巻温泉の「新しさ」
2 観光的想像力  「注文の多い料理店」「修学旅行復命書」
3 リゾートとしての「イギリス海岸」
4 ランドスケープデザイナー  「対称花壇」「日時計花壇」
5 「南斜花壇」とヒグマ
6 賤舞の園を供すとか  「遊園地工作」「悪意」
7 温泉遠足の系譜学  「東岩手火山」

第III部 ほとばしる温泉的想像力
1 温泉の訣かれ
2 花巻事変  「一九三一年度ビヂテリアン大会見聞録」
3 未来形のノスタルジー  「ポラーノの広場」
4 サウイフ温泉ニワタシハナリタイ  「グスコーブドリの伝記」
5 究極の霊泉セラピー  「雨ニモマケズ手帳」

あとがき
文献一覧

書評情報

澤田勝雄
赤旗新聞2010年2月15日

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