みすず書房

1941年、アンドレ・ブルトンは戦火のヨーロッパを逃れて、マルティニク経由でニューヨークに亡命した。同じ時期、マックス・エルンスト、アンドレ・マッソン、イヴ・タンギー、マッタ、サルバドール・ダリなど多くのシュルレアリストが、大西洋をアメリカへ渡っていた。新大陸で再開されたシュルレアリスム運動は、1942年ニューヨークで、マルセル・デュシャンの協力のもと大々的に開催された「ファースト・ペイパーズ・オブ・シュルレアリスム」展へ結実してゆく。
「ブルトンの〈郷愁〉が、〈母〉への直接的退行ではないにしても、アメリカという異郷にあって、〈神話〉という名の〈故郷〉を希求していたことはもはや否定すべくもないのではあるまいか。この〈神話〉が〈透明な巨人〉という脱主体的、非人格的な超越性を帯びているにしてもである」。
第二次大戦下の新大陸で、シュルレアリスムはいかに変貌し、そしてアーシル・ゴーキーやジャクソン・ポロックなど戦後アメリカ美術の展開に、どんな種子を撒いたのか。シュルレアリスムの首領アンドレ・ブルトンと、戦後アメリカ美術を先導したクレメント・グリーンバーグの言説を対比させながら、絵画におけるオートマティスムや形象性の問題に再考をうながす、画期的な新研究。

目次

序 ブルトンvsグリーンバーグ
ブルトンとピカソ 接近遭遇
  ピカソの召還
  「野生の状態」と「プリミティヴィズム」
  雑誌掲載の作品群
  「神話的」テーマ
  最接近遭遇
  あらわになる差異
グラディーヴァ・ノート
シュルレアリスムのひとつの神話的形象をめぐって
  女性的なものの形象
  エルンスト/括り罠
  ダリ/狂気を癒す女
  ブルトン/前進する女
  マッソン/生と死のメタモルフォーズ
マグリットvsグリーンバーグ
絵画の自己言及性について
  対他存在としての芸術
  二つのオートマティスム
  表象による自己言及性
マルセル・デュシャン 解答なき問題
  「問題」としてのデュシャン
  デュシャンと絵画
  レディメイドの論理
  「種」から「類」への移行
サルバドール・ダリ
表層のバロック的遁走
  ダリのニューヨーク
  二重映像の絵画——「偏執狂的=批判的」方法について
  「悪いダリ」と「良いフェルメール」——グリーンバーグの所説について
  二重映像の肖像
  特権的形象としての「襞」
  世界を記述する画家
  記譜された表層
  格子〔グリッド〕と地図
アンドレ・マッソン オートマティスムの絵画
  シュルレアリスムの絵画
  オートマティスム
  純粋な身振り、リズム、呪文
  砂絵
  ブルトンとマッソン
  神話
  マルティニク
  グリーンバーグのマッソン評
ニューヨーク、一九四二年
  シュルレアリストのニューヨーク
  雑誌『VVV』
  「シュルレアリスム第三宣言 発表か否かのための序論」
  新たな展覧会へ向けて
  ブルトンとデュシャン
  「ファースト・ペイパーズ・オブ・シュルレアリスム」展
  「今世紀の芸術」画廊
  故郷喪失〔ホームレス〕的美学
シュルレアリスムと抽象表現主義
  エルンストのオシレーション
  《Vox Angelica》
  マッタの「心理的形態学」
  ブルトン・ゴーキー・グリーンバーグ
  ポロックとグリーンバーグ

あとがき
参考文献一覧
人名索引

書評情報

松山巖(評論家)
読売新聞2009年4月12日(日)
栗田大輔
美術手帖2009年4月号
椹木野衣(美術評論家)
信濃毎日新聞2009年12月27日(日)
椹木野衣(美術評論家)
北日本新聞2009年12月27日

関連リンク