みすず書房

生きるための読み書き

発展途上国のリテラシー問題

判型 A5判 タテ210mm×ヨコ148mm
頁数 272頁
定価 4,620円 (本体:4,200円)
ISBN 978-4-622-07458-8
Cコード C0036
発行日 2009年9月25日
備考 現在品切
オンラインで購入
生きるための読み書き

「もし特定の文書に明確、着実な意味や機能があると感じるとしたら、その安定感は文書自体に内在しているのではなく、文書、それを使う諸人、両者を取り巻く社会状況の間の絶妙のバランスによって実現するものである。途上国における読み書きと生存の関係をより良きものにしていくためには、文書に関する制度や慣習、文書の生産流通にも目を向けた重層的なアプローチが必要である」(第8章より)

本書では、読み書きと生存の関係について、とりわけ途上国における「紙とペンの読み書き」の現状、そして今後の展望を考察する。
第I部〈現状編〉は、開発援助・国際協力における読み書き研究の概観を、リテラシーという切り口に沿って行う。
続く第II部〈理論編〉は、開発援助という枠を超えて、読み書きと生存の関係にかかわりを持つ諸研究を広く渉猟し、特に先進諸国における文書の使い方を考える。
第III部〈実践編〉では、著者自身が関わった南米ボリビア共和国のNGOにおける職業訓練プロジェクトを材料に、開発援助の現場での取り組みについて論じた。
三つのパートは相互に補い合う、切っても切れない関係となっている。そして、終章において、考察を整理し、ITの普及などさらなる課題を検討した。

最新の研究成果をふまえた、国際協力における理論と実践統合の試みであり、開発援助の新たな方向性を示す重要作である。開発援助・国際協力に関わる研究者、実務者、必携の書であると同時に、〈文書/読み書き〉という普遍的テーマでの啓蒙書となっている。

目次

第I部 読み書きと社会の発展

第1章 読み書き研究と国際協力
1.1 本書における読み書きの捉え方
1.2 読み書きに関する研究
1.3 開発とリテラシー
1.4 読み書きと生存
1.5 紙の消費と生存の圧迫

第2章 途上国の読み書き問題に対するリテラシー・アプローチ
2.1 開発研究におけるリテラシー
2.2 国際成人リテラシー調査
2.3 リテラシー・アプローチにおける文書への関心

第II部 文書と人間の歴史

第3章 文書とはどんな道具なのか
3.1 認知的人工物研究と途上国の読み書き問題
3.2 図的表現と世界
3.3 数の読み書き
3.4 声と図

第4章 紙の向こうの誰か
4.1 表情を読む、書面を読む
4.2 何を言うか、いかに言うか
4.3 書き言葉の伝統の乏しい言語と心の理論
4.4 図的表現と人々の心

第5章 現代世界における文書との付き合い方
5.1 「良い場所」に生まれる
5.2 近代化と文書の洪水
5.3 先進国における文書デザインとユーザー
5.4 ビジネス文書の読み書き
5.5 先進国企業における文書の役割
5.6 途上国における文書の質と量
5.7 文書の洪水にいかに対処するか

第III部 途上国の読み書き問題——ボリビアの編み物教室で考える

第6章 編み物プロジェクトの背景と成り立ち
6.1 ボリビアにおける貧困状況と読み書き
6.2 編み物プロジェクトの発端
6.3 文書管理エクササイズという落とし所
6.4 プロジェクトの対象に編み物を選んだ理由
6.5 文書管理エクササイズに向けた予備調査

第7章 文書管理エクササイズのメニュー
7.1 エクササイズと参加者
7.2 エクササイズの概要
7.3 エクササイズの全体見取り図

第8章 エクササイズの結果分析
8.1 全体的傾向
8.2 エクササイズの展開
8.3 プロジェクト終了後の編み物コース
8.4 プロジェクトをどう評価するか

終章
あとがき
文献表

「自著を語る」 著者からひとこと

途上国の社会開発、中でも南米のNGOでの職業訓練プログラムの話、と聞くと「こりゃまたえらくマイナーな話題だな」と思われる方がほとんどだと思います。実際、本の後半、第III部で取り上げるのはそういう話です。この本のアイデアをみすずの編集者、島原さんにお話しした時に最初に返ってきたのも、「なるほど、重要なテーマでしょうね。ただ、そういうテーマに関心を持つ読者が日本にどれぐらいいるか…」という言葉でした。出版不況が叫ばれる折、開発問題に関心を持つ研究者の端くれとして、私自身予想していた反応でもありました。ただ、続いて言われた「できれば、もっと日本など先進国の話題も入れてほしいのですが」という編集部からのリクエストは、実は別の本として考えていたアイデアと重なるところがありました。そこで、この際、二つの主題を一冊の本にまとめてみることにしました。

本書でも強調している通り、先進国だろうと途上国だろうと、こと読み書きに関しては同じ生き物が同じ道具を使っているわけですから、両者を連続的に考える視点が必要だろうと常々考えてきました。その意味では、編集部からのリクエストはある意味「渡りに船」なところもあり、最終的に、現状編、理論編、実践編の三部構成の本にまとまりました。その分、歴史研究から認知科学までいろんな領域の研究を、やや食い散らかし気味に広く浅く参照することになってしまいましたが、それも文書という道具の特徴ゆえのこと。結果的に、1冊の本にまとめることができてよかったと思っています。

この本を書いている間に途上国の状況もずいぶん変わりましたが、日本をはじめとする先進諸国の貧困問題もだんだんクローズアップされるようになりました。偽装問題や年金問題など、いかに技術が発達しようとも、読み書きと生存を巡る問題は私たちにとっても他人事ではありません。基本的に、国際協力・開発援助に携わる(あるいは志す)方々を念頭に置いて書いた本ですが、広く、文書・読み書きに関する研究書としても皆さんのご参考になれば幸いです。

書評情報

本村凌二(西洋史家)
読売新聞2009年11月22日
狐崎知己(専修大学経済学部教授)
月刊クロスロード2009年12月号