みすず書房

『世界はうつくしいと』は、そう言っていいなら、寛ぎのときのための詩集である。寛ぎは、試みの安らぎであるとともに、「倫理的な力」ももっている。「寛ぎとはありとあらゆるヒロイズムを進んで失うこと」(ロラン・バルト)であるからだ。二十七篇の詩は、六年の日月をかけ、季節が一つめぐってくる毎に一つずつ、目の前の風景のなかにひそむ消滅点を一つずつ、じぶんの指で確かめるようにして、ゆっくり書き継がれた。——「あとがき」より

この詩集に収められた詩のタイトルをいくつか拾ってみよう。「窓のある物語」「机のまえの時間」「なくてはならないもの」「世界はうつくしいと」「人生の午後のある日」「みんな、どこへいったか」「大いなる、小さなものについて」「ゆっくりと老いてゆく」「カシコイモノヨ、教えてください」「モーツァルトを聴きながら」「蔵書を整理する」「大丈夫、とスピノザは言う」「人の一日に必要なもの」「グレン・グールドの9分32秒」……
ここにあるのは深く緩やかな言葉である。性急な時期は過ぎ去った、人生の午後はゆっくりと風景や時間に向きあうことがたいせつ。だれもが感じる日々の感興が、奥行きのある知性とますます自在な詩法で書き留められた、大人のためのポエム・コレクション。

目次

窓のある物語
机のまえの時間
なくてはならないもの
世界はうつくしいと
人生の午後のある日
みんな、どこへいったか
大いなる、小さなものについて
フリードリヒの一枚の絵
二〇〇四年冬の、或る午後
シェーカー・ロッキング・チェア
あるアメリカの建築家の肖像
ゆっくりと老いてゆく
カシコイモノヨ、教えてください
モーツァルトを聴きながら
聴くという一つの動詞
蔵書を整理する
大丈夫、とスピノザは言う
We must love one another or die
クロッカスの季節
一日の静、百年の忙
人の一日に必要なもの
こういう人がいた
冬の夜の藍の空
早春、カササギの国で
花たちと話す方法
雪の季節が近づくと
グレン・グールドの9分32秒

あとがき

池辺晋一郎作曲「交響曲第9番」

作曲家・池辺晋一郎の「交響曲第9番」は、長田弘『人はかつて樹だった』『世界はうつくしいと』『詩の樹の下で』の三冊の詩集から9篇の詩をテキストとした、独唱を伴う9楽章のシンフォニーです。演奏時間45分の大作で、2013年9月15日に東京オペラシティで開かれた「作曲家・池辺晋一郎 70歳バースデー・コンサート」において初演されました。

書評情報

池辺晋一郎
毎日新聞「この3冊」2014年2月2日(日)
岡井隆
東京新聞2012年7月24日
三枝﨔之(歌人)
静岡新聞2011年3月27日(日)
宝島社「リンネル」
2011年1月号
中村稔
文学界2010年5月号
浪川知子
読売新聞2010年4月22日(木)
蜂飼耳(詩人)
東京新聞夕刊2009年7月4日(土)
松浦寿輝(詩人)
毎日新聞2009年6月25日(木)
金原瑞人(翻訳家・法政大学教授)
日経ヘルス プルミエ2009年8月号
長谷川宏(哲学者)
婦人之友2009年9月号
Dot「保育者ライフ・私の愛読書」(チャイルド社)
2016年9月号
西崎文子
(東京大学名誉教授)
ひもとく「平和へのリアリズム〈怖れ〉の病理に陥らぬために」
朝日新聞 2023年7月29日

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