みすず書房

数学は最善世界の夢を見るか?

最小作用の原理から最適化理論へ

LE MEILLEUR DES MONDES POSSIBLES

判型 四六判
頁数 384頁
定価 3,960円 (本体:3,600円)
ISBN 978-4-622-07467-0
Cコード C1041
発行日 2009年12月17日
備考 在庫僅少
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数学は最善世界の夢を見るか?

光はどのようにして自らの行くべき最善の道筋を知るのだろう? 最小作用の原理を発見したモーペルテュイは、それを「神の叡智」によると信じた。ライプニッツの「可能世界」の概念とも結びつき18世紀に自然哲学上の議論を呼んだこの原理は、解析力学が成熟するにつれ、形而上学的意味を失っていく……。本書は、最も合理的な解の解法をめぐる400年の物語だ。
オイラー、ハミルトンらによる解析力学の数学的発展、「力学を幾何学の領域へ連れて行った」ポアンカレ。数学によって世界の新たな見方を切り拓いた天才たちの離れ業には、魅了されずにいられない。著者はビリヤード球の運動を例に、可積分系から非可積分系への移行、計算から幾何への移行やカオスをわかりやすく描出している。
さらに同じビリヤードを使ってグロモフの「古典力学の不確定性原理」が解説されるのも、偉大なパズルが解けていくような驚きと痛快さがある。力のある読者はぜひ、ガリレオの夢を実現するというシンプレクティック幾何への道のりを、より詳しく語っている付録3に立ち寄ってみてほしい。
最適化問題として「最善世界」の条件を解くことは可能なのか? 末尾の数章は、最適化の科学は神のごとき全知とは異なるという諌めでもあり、同時に、合理性の希求へのゆるぎない支持表明といえるだろう。

目次

はじめに
第一章 時を刻む
 振子
 正確な時刻
 計測の道具
第二章 近代科学の誕生
 オッカムの剃刀
 機械としての世界
 ライプニッツの見方
第三章 最小作用の原理
 屈折の法則
 フェルマー対デカルト主義者
 デカルト物理学対ニュートン物理学──モーペルテュイ登場
 最小作用の原理
 最小作用の原理の数学的発展
 目的因論的説明の終わり──科学の役割
第四章 計算から幾何へ
 運動方程式は解けるのか?
 因果列
 ビリヤード──円形または楕円形の場合
 ビリヤード──一般凸形の場合
第五章 ポアンカレとその向こう
 ポアンカレ
 方程式を解かずに解を見つけるには?
 古典力学の不確定性原理
第六章 パンドラの箱
 最小作用の原理の微視的根拠
 時の矢
第七章 最善者が勝つのか?
 自然淘汰
 偶然の役割
 ゲーム理論
第八章 自然の終焉
 構築すべき世界
 最適化のアイデア
 社会組織
第九章 共通善
 社会的選択の理論
 個人の利益と共通善
第十章 個人的な結論

参考文献について
訳者あとがき
引用文献
付録1 凸形ビリヤード台の短い直径を求める
付録2 一般系に対する停留作用の原理
付録3 運動の幾何学
 慣性の法則
 運動の幾何学的表現
 エネルギー保存の法則
 多振動子
 変分法
 幾何学とは何か
 シンプレクティック幾何学
索引

書評情報

海部宣男
毎日新聞2010年1月24日(日)
瀬名秀明(作家)
朝日新聞2010年3月14日(日)
池内了(宇宙物理学者)
読売新聞2010年3月28日(日)
数学セミナー
2010年6月号
機械設計
2011年3月号

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