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環境世界と自己の系譜

著者
大井玄

現在の地球環境危機をまねいた要因は、「開放系」と「閉鎖系」という相異なる社会環境の系譜にある。「ヒトは、歴史的にその生活・文化・環境へ適応しながら、自己観や生存戦略意識としての倫理意識を形成してきた。狭く貧しい〈閉鎖系〉で譲り合い助け合う生存をつうじて、典型的日本人のつながりの自己観と〈関係志向〉の倫理意識が作られた。広漠たる〈開放系〉で競争し、闘いながら欲望追求の自由をつうじて、アトムのようなアメリカ人の自己観と〈個人志向〉の倫理意識が形成されてきた」。
競争型社会と協調型社会が成立するための生存戦略は、環境世界と自己観のあり方に動機づけられる。開放系(資源と領土が無限にひろがっている状態)としての古代ギリシアから開拓期アメリカ、閉鎖系(資源も領土も限られている状態)としての古代日本から江戸時代へと文明史をたどりながら、自立自尊の「アトム的自己」によって富の分極化を加速させるグローバリズムから、「つながりの自己」によって他者や環境へ配慮する来るべき倫理への転換を模索する。
著者は内科医にして元国立環境研究所所長。認知症診察、エイズ研究、唯識、文化心理学、脳科学、歴史学、そして社会経済学まで、幅広く深い実践と思索が結晶した、類い稀なる未来への提言。


目次


I 環境世界と世界仮構
I‐1 世界仮構ということ
 環境世界/環境世界と世界仮構/期待と認知/認知症と期待/不安という情動
I‐2 認知症で見られる世界仮構
 認知症観察のむずかしさ/仮想世界の医療人類学的観察/
 なぜかれらの世界は理解できるのか/仲間とシャボン玉世界/過去という「現実」世界
I‐3 非痴呆状態で見られる世界仮構
 外向きの方向性/日常に見られる世界仮構/コトバと共同幻想/
 膨張するシャボン玉/「民族浄化」という膨張/情動は倫理を捏造する
I‐4 不快刺激対応の文化差
 不快刺激としてのエイズ/不快刺激の排除――貧しい共同体の文脈で/
 不快刺激からの逃避――パニック/不快刺激の破壊――暴力に彩られて/
 エイズ流行の実態――疫学的数値の語ること/自我拡張と不快情報無視/
 自己卑下によるエイズ流行認識の偏り/認識の偏りの根源
I‐5 世界仮構と深層意識
 世界仮構――深層意識的営み/コトバによる事物の実体化/自己中心性を覚るとき
I‐6 唯識に説かれた深層意識
 唯識の今日的意味/唯識の意識構造/アーラヤ識/アーラヤ識と現代の脳科学/
 マナ識/マナ識と現代医療/唯識のコスモロジー/コスモスを直覚するには

II 深層心理における自己観と倫理意識
II‐1 人類文化に見られる二種の自己観
 「痴呆」はなぜ怖いのか/文化的自己観の二種/関係のなかの自己・独自の自己/
 行動を決めるのは性格か状況要因か/「アトム的自己」と性悪説/
 倫理意識――「個人志向」対「関係志向」/感情――「自己中心」対「他者中心」/
 しあわせ感――離脱肯定vsつながり肯定/自己高揚と自己卑下/
 自己制御という能力と自尊/アトム自己観に基づく「人間観」に普遍性はない/
 がん告知――自立の自己vs関係の自己
II‐2 「アトム的自己」の出現と生存の態様
 「つながり」を断つ生き方/ホッブス的世界と「アトム的自己」/
 アメリカのニューフロンティア/日本のニューフロンティア
II‐3 「つながりの自己」の形成―――古代日本の事例
 神話と社会制度に反映した平等意識/十七条憲法の倫理思想/公地公民という平等思想
II‐4 中世日本の倫理意識
 飢えという極限状況/平民の生存行動の倫理的方向性
 武士の倫理意識の方向性/戦国から平和へ
II‐5 江戸時代の倫理意識
 共同体意識と「平等思想」/閉鎖系環境維持の倫理意識/
 欧米人の見た幕末庶民の幸せ/閉鎖系への適応と倫理――心学/
 「つながり」の深層意識的ダイナミズム/極端なつながり志向と離脱的優越/
 自己無化的つながり志向――その対象

III 倫理意識・経済システム・環境
III‐1 新古典派市場経済理論とその世界仮構
 開放系と「アトム的自己」
III‐2 ニュージーランド行政改革という事例
 「利己的経済主体」の教育と研究/「利己的経済主体」の意味すること/
 NZ行革の報道の仕方/アメリカでの社会的コスト
III‐3 生存戦略的意識転換を迫られるとき
 倫理意識という生存戦略意識/倫理意識の転換を迫られた子どもたち/
 「自己」意識はつながりをとおして生まれた/「構造改革」が無視する日本人の倫理意識
III‐4 環境と倫理意識
 脱「自然物」的人間観の形成/閉鎖系のエコロジカルな生存と倫理意識/
 つながりの倫理意識
III‐5 地球環境の崩壊は食い止められるか
 所得格差拡大と社会の不安定化/社会のセーフティネット構築はなるか/
 地球温暖化阻止の倫理的対立/閉鎖系での生存


[付録]ニュージーランドの行政改革と高等教育および科学研究への影響
あとがき
索引


著訳者略歴

大井玄
おおい・げん

1935年生まれ。1963年、東京大学医学部医学科卒。1965-71年、ペンシルバニア大学グラジュエート病院内科助講師、デューク大学医学部血液科フェロー。 ...続きを読む »

※ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。

書評情報

池澤夏樹(作家)
<週刊文春 2009年9月10日号>
池澤夏樹<朝日新聞夕刊 2009年9月5日(土)>

関連リンク

この本の関連書


「環境世界と自己の系譜」の画像:

環境世界と自己の系譜

「環境世界と自己の系譜」の書籍情報:

四六判 タテ188mm×ヨコ128mm/312頁
定価 3,740円(本体3,400円)
ISBN 978-4-622-07472-4 C0036
2009年7月24日発行

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