みすず書房

生物多様性〈喪失〉の真実

熱帯雨林破壊のポリティカル・エコロジー

BREAKFAST OF BIODIVERSITY

判型 四六判
頁数 296頁
定価 3,080円 (本体:2,800円)
ISBN 978-4-622-07528-8
Cコード C0045
発行日 2010年4月20日
備考 現在品切
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生物多様性〈喪失〉の真実

誰もが望んでいるはずの生物多様性の保全が、なぜ国際政治の争点となるのか。不思議に感じたら、本書を手にとってほしい。
地球上でとびぬけて高い生物多様性を有する熱帯雨林。その急速な破壊と、先進国の食卓にたどりついた一本のバナナの関連を、本書は丹念にたどっていく。熱帯雨林の複雑性、その土地をめぐる人々のさまざまな思惑と現実。雨林周辺に噴出する困難の数々を、かけがえのない多様性もろとも飲み込んでいるのが、バナナ・プランテーションだ。さらに第三世界における二極経済の構造、および南北問題というより大きな構造が、バナナの大海原を支えている。こうした雨林破壊の「因果関係のネットワーク」を、著者はダイナミックに描き出す。
本書のもう一つの主眼は、景観の設計を軸とする保全戦略の意義を解説し、基本認識として幅広い読者と共有することだ。
「熱帯雨林を守るためにはどうすればよいかを明確に示したい。……広い地域を購入して武装したガードマンを配置してそれを守るといった方法はばかばかしいかぎりだ、という私たちの考え方に、読者の皆さんも同感するようになっていただきたい。」
今日の環境保全戦略には、科学的合理性と同時に、利害関係者の土地の保障・食の安定を視野にいれるポリティカル・エコロジーの多角的視点が求められている。

目次

はしがき(ヴァンダナ・シヴァ)
はじめに

1 朝食は熱帯雨林スライスを添えて
コスタリカ人と、バナナに対する愛憎
伐採業者、農民、そしてバナナ会社——変化に富んだ歴史
さまざまな観点から見た問題点
熱帯雨林を救うための、二つのモデル
コスタリカ、バナナ、そして一般的パターン

2 熱帯雨林は脆弱ではなく、安定もしていない
安定した蜘蛛の巣か、脆弱なカードの家か
熱帯雨林の機能における六つの主要ファクター
第一ファクター──生物多様性
第二ファクター──受粉
第三ファクター──植食性
第四ファクター──種子散布
第五ファクター──林冠ギャップの遷移と、その他のさまざまな撹乱
第六ファクター──土壌
熱帯雨林の多様性
生物学的側面のまとめ

3 熱帯雨林の土壌における農耕
熱帯雨林の景観——目に見えないモザイク
焼畑農業
熱帯雨林土壌での、農業の安定化
将来を見据えた、いくつかのモデル

4 熱帯雨林地域における農業の政治経済的側面
農業の起源と集約化
農業と飛び地生産
先進国における農業の近代化
近代農業の技術的側面
近代農業の社会経済的側面
近代的システムのまとめ

5 現代の世界システムにおける農業の多彩な側面
現代の世界システム
今日の、先進国の農業
先進世界の経済
南側諸国の経済と、従属理論
二極経済の機能
現代の世界システムと、熱帯の森林破壊

6 伐採および関連活動のポリティカル・エコロジー
森林再生と熱帯地方のプランテーション
熱帯雨林の撹乱と回復

7 グローバル化とニュー・ポリティクス
初期の歴史的背景
冷戦と反乱
グローバル化——新しい革袋に古い酒を
またもやバナナの登場
世界規模の、貧者の逆襲

8 熱帯雨林保護の取り組み——直接か、間接か
サラピキ再訪
ニカラグアの南大西洋岸自治区(RAAS)——対照例
二〇〇〇年代の厄介な状況
ニカラグア、カリブ海沿岸諸国の緊張関係
コスタリカ——バナナは魅力を失いかけているのだろうか
コスタリカとニカラグアを比較して得た教訓
要するに、悲観的なとらえ方でよいのか?
要するに、楽観的とらえ方ができるのだろうか?

9 生物多様性、農業、そして熱帯雨林
生物多様性と実用論
生物多様性と農業
景観をより大きくとらえる
一つの例——中央アメリカのコーヒー農業生態系
将来へのモデル

10 熱帯雨林の社会構築
熱帯雨林保護のための戦略
「バックラッシュ」戦略
社会正義と熱帯雨林

11 過去の原因、未来のモデル、現在の行動
因果関係のネットワーク
計画的なモザイク
政治的行動計画

解説
参考文献
索引

書評情報

中村桂子
毎日新聞2010年5月2日(日)
科学
2010年6月号
小野有五(北大大学院地球環境科学研究院教授)
北海道新聞2010年5月23日(日)
日経サイエンス
2010年8月号
久間木聡
東京新聞2010年10月3日(日)
赤嶺淳(名古屋市立大学人文社会学部)
科学2011年2月号

関連リンク