みすず書房

「机にかじりつくのはやめにして、野生の詩が生えているフィールドに出てみよう。そして、木の実を拾うように、キノコを探すように詩を読むことを、もういっぺんはじめようよ」(「「詩と生活」を読みほどく」)
詩は読まれなくなったと言われるけれど、なかなか捨てたもんじゃないのにもったいない。ちゃんと読もうとしない、ぼくたち読者にも責任があるんじゃないのか。アイルランド文学者にして翻訳者、そして少年時代から詩をこよなく愛してきた著者が、自らの内なる〈読解ソフト〉(@穂村弘)を起動させ、ホメロス、ダンテからシェイマス・ヒーニー、谷川俊太郎や伊藤比呂美まで、時代と場所を縦横無尽に行き来し、「声色つかいの詩人」たちを呼び集めて、ていねいに読みほどいた。
親切な案内人に連れられ、ひとつひとつの詩にじっくり向き合ううちに、詩の面白さに目覚めていくことうけあいの一冊。

目次

I
ソポクレスの声色で現代を写す …シェイマス・ヒーニー『トロイの癒し』
エリオットのダンテとヒーニーのダンテ
確信犯がこしらえたオデュッセイアテーマパーク
「多島海」の隠喩が語ること …デレク・ウォルコットと英語圏現代詩
語りなおされる古典…ホメロス、ダンテと現代詩人たち
II
語りなおし、歌いなおす魔法の声 …伊藤比呂美『日本ノ霊異ナ話』/『ラヴソング』
ゆきかえりする帰化植物がうたいはじめる …伊藤比呂美『河原荒草』
とげ抜きしろみ堂のミルフィーユを味わいながら詩のこれからを思う …『とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起』
噤みの午後にダンテと出会う …四元康祐読解ノート
「薄情」を読む
III
フロンティアとしてのアイルランド
物語の変身譚…キアラン・カーソンの『琥珀捕り——もうひとつの長い物語』におけるねじりと語りなおし
ユーラシアの東の端で拾った琥珀
二つの岸辺に同時に立てるか? …アイルランドで詩の翻訳について考えたこと
翻訳から個人言語へ …ウェールズ、アイルランドの詩人たちと多和田葉子、日和聡子をつなぐもの
窓のあるふたつの詩の会話 …谷川俊太郎とデレク・マホンについて
木は移植されて森をつくる …田原の日本語詩を読む
IV
ユリシーズよ、記憶の封印を解いて語れ …白石かずこ『浮遊する母、都市』
辻式「雪わりラム」のつくりかた …『辻征夫詩集』『続・辻征夫詩集』
箱のなかの未知の国 …チャールズ・シミック、柴田元幸訳『コーネルの箱』
現代詩の「型」を破って …佐々木幹郎『悲歌が生まれるまで』
身の上を一人語りする古事記の神々 …高橋睦郎『語らざる者をして語らしめよ』
荒川一徹堂謹製現代詩試案集読後 …荒川洋治『心理』
「未来の言葉」に耳を澄ます …友部正人監修『Live! No media 2004』
すでにそこにある詩の言語とは …日和聡子『虚仮の一念』
粗忽なシルヴィア・プラスなど …斉藤倫『オルペウス オルペウス』/三角みづ紀『カナシヤル』/松岡政則『草の人』
稲妻を狩る詩人よ、暴走せよ! …野村喜和夫『稲妻狩』
「還流」する単車の音 …宮田浩介『Current』
犬男の国のジョン・レノン、そのほか 
ネロとの約束を破らずに歩いてゆく「私」
うたげと対座 …共同詩のふたつの流れ
「詩と生活」を読みほどく

あとがきにかえて
初出一覧

書評情報

和田忠彦(東京外国語大学教授)
日本経済新聞2010年5月23日(日)
蜂飼耳(詩人)
東京新聞2010年5月1日(土)
読売新聞
2010年7月11日(日)
笠間直穂子
週刊朝日2010年7月30日号

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